1997 年 47 巻 2 号 p. 213-217
幼若永久歯の萌出後成熟の過程におけるエナメル質表層フッ素濃度の経時的変化を明らかにするためには,萌出後成熟に関与する各種の因子(唾液や食物の流れ,プラーク付着,wearなど)が一様に作用する,という条件を満たす歯面が必要になる。そこでわれわれは,歯周病により抜歯されたヒト抜去下顎中切歯15歯を用い,唇面切縁側の近心部と遠心部におけるエナメル質表層フッ素濃度をマイクロサンプリング法により測定し,比較検討した。その結果下顎中切歯唇面近心部と遠心部では,ともに表層ほど高く内層へ向かうほど低くなるフッ素の濃度勾配が認められた。また1.0〜20.0μmのすべての深さにおいて,エナメル質フッ素濃度に近遠心的な有意差は認められなかった。このことから,下顎中切歯唇面では,歯の萌出後成熟に関与する環境因子の影響に近遠心差がないことが示唆された。