本研究の目的は,高齢者における辺縁部および根尖部の歯周組織の状態をX線学的に評価し,骨吸収度や歯の喪失との関連要因について分析することである.対象は,1998年新潟市で実施した調査に参加した70歳600人のうち,有歯顎で,2年間の追跡調査を受けた379人から層別抽出した100人である.パノラマX線撮影をもとに骨吸収度,根尖部の状態を調査した.ベースライン時の現在歯のうち無髄歯は36.9%を占め,そのうち35.6%に根尖病巣が認められた.骨吸収度は,現在歯群別では,1〜9本群,20本以上群でそれぞれ36.4,27.5%であり20本以上群で有意に小さかった.2年間での喪失歯は50本で,ベースライン時での歯髄の状態では,有髄歯から7本,無髄歯から43本であった.ロジスティック回帰分析の結果,2年間での歯の喪失の危険性は,現在歯1〜9本群で20本以上群と比較し33.33倍,骨吸収度50%以上ありで5.11,5.80倍,無髄歯で8.01倍,根尖病巣ありで9.87倍,鉤歯で2.77,2.36倍であることが示された.本調査により,高齢者において20本以上現在歯を有する者は骨吸収が少なく,喪失リスクも小さかった.また,歯髄の保存が喪失リスクの低下につながることが示唆された.