口腔衛生学会雑誌
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原著
睡眠時の咬合接触パターンとくさび状欠損発現率の研究
川越 俊美猿田 樹理三宅 真次郎笹栗 健一秋本 進佐藤 貞雄
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2008 年 58 巻 5 号 p. 542-547

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抄録

くさび状欠損や歯周病などの歯科疾患と咬合との関係は,今なお歯科領域における大きな研究課題となっている.歯のクラックやくさび状欠損と咬合因子との関係が示唆され,口腔疾患,特に楔状疾患の発現にも咬合に由来する生力学因子が関与していることが指摘されている.このことからブラキシズムの要因を加え,さらなる研究が必要とされている.これまでの睡眠ブラキシズム研究は,睡眠ポリグラフや筋電図による生理学的パラメータの測定,あるいはアンケート調査などを利用した研究に限定され,睡眠ブラキシズム時の歯の接触状態や下顎の運動パターンを把握することが困難な問題であったため,ブラキシズムと口腔疾患との関連について,その実態を把握することはきわめて困難であった.本研究では,咬合,特に睡眠ブラキシズム時の咬合接触パターンに着目し,くさび状欠損の発現との関連性を知ることを目的とし,一般集団を対象とした集団歯科検診を実施した.本調査は,2004年1月から12月にかけて東京都区内の大手製造業系企業の従業員および関連会社の職員を対象として実施した定期集団健診の診査にあわせて行った.また,口腔内診査,くさび状欠損の有無,咬合様式の診査も実施した.インフォームドコンセントの後,顎機能に関する詳細な検査を希望する者240名(男性195名,女性45名,平均年齢41.02歳)に対して,上下顎印象採得および咬合採得,ブラックスチェッカーによる睡眠ブラキシズム時の咬合接触状態の診査などを行った.くさび状欠損の発現は,20代が7.1%で,50代では15.8%と,年齢が上がるにつれて発現率が増加した.口腔内診査における咬合様式と,ブラックスチェッカーから得られた睡眠時の咬合接触状態には差異があることが明らかとなった.咬合様式による診査では,咬合様式に応じて,くさび状欠損発現率に差は認められなかった.ブラックスチェッカーによる診査では,作業側において,小臼歯まで接触している者(13.5%),大臼歯部まで接触している者(13.6%)のほうが,犬歯まで接触している者(3.6%)よりくさび状欠損の発現率が有意に高い傾向にあった.ブラキシズムにおける咬合接触とくさび状欠損発現に因果関係がある可能性が示唆された.

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© 2008 一般社団法人 口腔衛生学会
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