本研究の目的は,重度精神疾患入院患者の歯科保健状況を把握し,泡状高濃度フッ化物配合歯磨剤(以下,泡状HF歯磨剤)の使用が,その患者の口腔衛生,歯科疾患,および口腔症状に及ぼす影響を確認することである.
対象は某精神病院に入院する52名の重度精神疾患患者であり,泡状HF歯磨剤を3か月使用する群(介入群)と使用しない群(対照群)に分類した.対象者の歯科保健状況と泡状HF歯磨剤使用の効果を確認するために,歯科保健行動に関する質問紙調査,歯の検査,前歯部唇面の歯垢および歯肉炎の検査,および湿潤度の検査を介入前後に実施した.
46名(男性23名,女性23名,平均年齢62.3±10.5)が介入前調査に参加した.11%が歯磨き未実施,歯磨剤未使用であった.平均未処置歯数は2.0±2.5本であり,91%が前歯部唇面に歯垢および歯肉炎を有し,15%が口腔乾燥を有していた.
41名(介入群18名,対照群23名)が介入前後の歯科保健状況の調査に参加した.介入群では,歯垢および歯肉炎の状況が改善したが,対照群では,それらの改善は認められなかった.
以上により,重度精神疾患入院患者の歯科保健状況は悪く,歯科疾患の予防対策の必要性が明らかになった.また,泡状HF歯磨剤の使用により,それらの患者の口腔衛生状況,歯肉炎への改善効果が認められた.今後,泡状HF歯磨剤のう蝕予防効果を確認するための更なる研究が必要である.