口腔衛生学会雑誌
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73 巻, 3 号
令和5年7月
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
総説
原著
  • 諏訪間 加奈, 岩﨑 正則, 伊藤 由美, 葭原 明弘
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 73 巻 3 号 p. 177-184
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/15
    ジャーナル フリー

     本研究の目的はアルコール摂取状況と歯の喪失との関連を明らかにすることである.40歳以上の25,216名を分析対象とした.分析では,性別およびアルコール摂取状況[非飲酒者,過去飲酒者,現在飲酒者(週1~149 g,週150~299 g,週300~449 g,週450 g以上)]により対象者特性を比較した.その後,アルコール摂取状況と歯の喪失との関連について,ロジスティック回帰分析を行った.従属変数を歯の喪失程度(「現在歯数20本未満」および「無歯顎」)とし,独立変数をアルコール摂取状況とした.

     その結果,男性で,現在歯数20本未満と非飲酒者,過去飲酒者,週450 g以上との間に有意な関連がみられた[週1~149 gと比較したオッズ比(95%信頼区間)=1.49(1.29–1.72),1.25(1.05–1.49),1.22(1.07–1.39)].無歯顎は非飲酒者との間に有意な関連がみられた[1.70(1.33–2.18)].一方,女性で,現在歯数20本未満と非飲酒者,週150 ~299 g,週450 g以上との間に有意な関連がみられた[1.20(1.08–1.34),1.28(1.04–1.57),1.64(1.12–2.40)].無歯顎は週450 g以上との間に有意な関連がみられた[3.18(1.31–7.76)].

     アルコール摂取状況は歯の喪失と関連し,現在飲酒者においてアルコール摂取量が多いほど関連が強く,その関連の程度には性差がみられた.

  • 晴佐久 悟, 中島 富有子, 黒木 まどか, 原 やよい, 青木 久恵, 石塚 洋一, 眞木 吉信
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 73 巻 3 号 p. 185-196
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/15
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,重度精神疾患入院患者の歯科保健状況を把握し,泡状高濃度フッ化物配合歯磨剤(以下,泡状HF歯磨剤)の使用が,その患者の口腔衛生,歯科疾患,および口腔症状に及ぼす影響を確認することである.

     対象は某精神病院に入院する52名の重度精神疾患患者であり,泡状HF歯磨剤を3か月使用する群(介入群)と使用しない群(対照群)に分類した.対象者の歯科保健状況と泡状HF歯磨剤使用の効果を確認するために,歯科保健行動に関する質問紙調査,歯の検査,前歯部唇面の歯垢および歯肉炎の検査,および湿潤度の検査を介入前後に実施した.

     46名(男性23名,女性23名,平均年齢62.3±10.5)が介入前調査に参加した.11%が歯磨き未実施,歯磨剤未使用であった.平均未処置歯数は2.0±2.5本であり,91%が前歯部唇面に歯垢および歯肉炎を有し,15%が口腔乾燥を有していた.

     41名(介入群18名,対照群23名)が介入前後の歯科保健状況の調査に参加した.介入群では,歯垢および歯肉炎の状況が改善したが,対照群では,それらの改善は認められなかった.

     以上により,重度精神疾患入院患者の歯科保健状況は悪く,歯科疾患の予防対策の必要性が明らかになった.また,泡状HF歯磨剤の使用により,それらの患者の口腔衛生状況,歯肉炎への改善効果が認められた.今後,泡状HF歯磨剤のう蝕予防効果を確認するための更なる研究が必要である.

  • 佐々木 泉, 福井 誠, 坂本 治美, 玉谷 香奈子, 日野出 大輔
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 73 巻 3 号 p. 197-204
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/15
    ジャーナル フリー

     本研究では,口臭症患者から検出された揮発性硫黄化合物(Volatile Sulfur Compounds: VSC)と舌苔沈着および歯周状態との関連性を分析することを目的とした.研究対象者は徳島大学病院口臭外来受診者156名である.ガスクロマトグラフィー検査(H2S, CH3SH, total VSC)に加えて,性別,年齢,日常の口腔清掃習慣および喫煙習慣などについて電子カルテよりデータを取得した.舌苔沈着状況はWinkle Tongue Coating Index(WTCI)にて数値化した.歯周状態または口腔清掃状態のデータが得られた37名に対しては,口臭と口腔環境との関連性について統計学的に分析した.舌清掃習慣あり群ではなし群と比較して,検出されたすべてのVSCが有意に少なかった.また,検出されたすべてのVSCとWTCIおよびO’Leary のPlaque Control Record(PCR)との間に,有意な正の相関が認められた.さらに,真性口臭症患者では,Periodontal Epithelial Surface Area(PESA)とCH3SHとの間に有意な正の相関が認められた.検出されたVSC濃度を対数変換して従属変数とした重回帰分析を行った.その結果,各VSC値とも有意な関連性が認められたのはWTCIのみであり,H2S,CH3SH およびtotal VSCの偏相関係数はそれぞれ,0.519(p<0.01),0.479(p<0.05)および0.531(p<0.01)であった.これらの結果から,VSCの発生には舌苔沈着が関与しており,口臭の予防のために舌苔沈着を低減させる必要性が示唆された.

報告
  • 吉岡 昌美, 中江 弘美, 福井 誠, 柳沢 志津子, 十川 悠香, 坂本 治美, 日野出 大輔
    原稿種別: 報告
    2023 年 73 巻 3 号 p. 205-213
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/15
    ジャーナル フリー

     近年,歯磨き習慣などの口腔保健行動と生活習慣病との関連性が報告されている.本研究では口腔保健と生活習慣に関連する3分間のYouTube動画24本を制作し,歯磨き習慣とリンクさせた動画視聴が保健行動の変容に対して効果があるのかどうか検討した.某大学の教職員に,1日1回原則として就寝前の歯磨き時にYouTube動画を24回視聴してもらい,初回診査時(視聴前),視聴直後,初回診査より約6か月後の3時点で質問紙調査を行った.24回分の動画視聴を完遂できた21名のアンケート結果から,視聴後の歯磨き習慣の変化としては,丁寧になったが約6割,歯磨き時間が長くなったが約4割,就寝前の歯磨きが習慣化したが約3割であった.口腔保健に対する意識については,自分の歯や口について関心が高くなったが約7割,知識が増えた,価値観が高くなったと答えた者も6割を超えた.初回,視聴直後,6か月後のアンケートを比較した結果,定期歯科健診を受診している者の割合が初回33.3% から6か月後57.1%と有意に高くなった.歯間清掃習慣については初回「いいえ」と答えた5名のうち4名が,6か月後の調査で「時々」と回答した.毎日の歯磨き習慣に関連付けた形でYouTube動画を視聴することで,歯磨き習慣や保健行動に変化をもたらす可能性が示唆された.この手法は多忙で歯科受診に対する優先度が低くなりがちな現役世代にアプローチするツールとして期待できるのではないかと考える.

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