抄録
う蝕病変の理解にとつて残された重要な課題の一つは, エナメル質表層における初期変化, 特に表面における侵襲門戸を明らかにすることであろう。この為にはエナメル質について, あらかじめ組織構造を把握した上で, そこに生ずる変化過程を逐一追跡観察する必要がある。この観察には, 歯の平行薄切片を用いることが有利であろう。
しかし, こうした歯質の変化を直接に観察し得る方法, またはそれに関した知見というものは現在のところ殆んど見当らない。
かかる意味で, 本実験は, 歯の薄切片を用いそこに生ずる変化を顕微鏡下で連続して観察し得る方法を確立することにあつた。
先ず, 約20μ厚の平行薄切片を既報の方法に順じて作成し, この切片を観察部位となる一部表面のみを残し, Polyvinylmethyletherの3% toluene溶液でスライド及びカバーグラス間に接着する。 (図1) この観察試料を顕微鏡下にセットし, 図2, 3に示したような装置を用い露出歯面に作用液を恒速で流入させそれによって生ずる変化を観察記録するものである。特に変化の詳細な記録には16mmの自動撮影装置を用いることが望ましい。
図4は, pH5.0のN/10酢酸緩衝液によって生じた変化を前記の方法によって67時間にわたつて観察記録したものであるが, これによって明らかなごとく本方法は変化の長期観察に十分堪え得るものであるし, また本方法の確立によって, う蝕病変に新しい知見が導入されるであろう。