抄録
[目的]妊娠中の喫煙は胎児の器官形成に影響を及ぼし,先天性心疾患やロ蓋裂等のリスクを高めることが報告されている。しかしながら喫煙により影響を受ける細胞種および標的分子に関しては不明である。神経堤細胞は発生過程で一過的に発現し,胚体内を広範囲に渡って移動しながら様々な細胞へと分化することで,組織形成に関与している。この神経堤細胞の細胞異常は,胎児の器官形成に大きく影響すると考えられている。そこで我々は,マウス神経堤細胞遊走へのタバコ主流煙抽出物(Cigarette Smoke Extract: CSE)の影響を検討した。[方法]神経堤細胞の遊走能を評価するため,マウス胎仔(胎仔齢9.5日)の神経管およびその周辺組織を単離し,培養を行った。神経堤細胞の遊走能は,組織から遊走する神経堤細胞の移動面積を測定し,評価した。CSEはタバコ主流煙をリン酸緩衝液に可溶化して作製された。マウス組織培養後24時間目にCSEを加え,CSE添加後24時間目に細胞遊走能を評価した。[結果]神経堤細胞の遊走はCSEを加えることにより,濃度依存的かつタバコのタール含有量依存的に抑制された。CSEは神経堤細胞でアポトーシスを誘導しない上に,細胞増殖性にも影響することなく,細胞遊走を抑制した。CSEの神経堤細胞遊走抑制へのダイオキシン受容体Aryl hydrocarbon receptor(AhR)の関与を検討するため,AhR拮抗薬であるα-naphthoflavone(α-NF)の効果を検討した。α-NFはCSE処理による細胞遊走抑制を阻害した。また,神経堤細胞にAhR遺伝子を導入したところCSE処理時と同様に細胞遊走が抑制された。[結論]本研究の結果,CSEはAhRシグナルを介して神経堤細胞の遊走を抑制することが明らかとなった。