2003 年 13 巻 2 号 p. 343-367
トキサフェンは日本国内において農薬としての登録実績はないが, 残留性有機汚染物質であることから, 今後, 国際的に規制される化学物質のひとつである。そこで, トキサフェンによる日本国内の環境汚染の実態調査を進める上で, 世界における汚染状況や環境中での分解性に関する知見をまとめ, GC-MSによる定量法について紹介した。環境中に残留するトキサフェンは経年変化により本来の工業用トキサフェンとは著しく組成が異なり, 例えば, 土壌中における主要な分解経路は還元脱塩素化であり, 母乳中で高い割合を占める異性体はB8-1413およびB9-1679と判明した。これより, 塩素が置換した際に立体障害がなく6員環に歪の生じないボルナン骨格を有する異性体が, 環境中において高い残留性を示すことが示唆された。一方, GC-MS測定では注入部における熱分解, EI法によるフラグメンテーション, NICI法における異性体間の相対感度係数の差に特に留意すべきである。今後, より精度と正確さに優れた分析手法を確立するためには, エナンチオマの選択的分離や標準物質の合成が求められる。