2016 年 23 巻 2 号 p. 28-30
直達外力により生じた上腕二頭筋腱遠位断裂に対する長掌筋腱移植術を経験した.67歳男性,主訴は左肘屈曲不全と左上腕痛で,ガラス板辺縁が上腕遠位前方に衝突し受傷した.上腕遠位1/3に皮膚の陥没,屈曲時痛を認め,上腕二頭筋腱は触知不可能,MMTは肘屈曲と前腕回外がともに4レベル.単純X線,CTで明らかな骨棘形成はなく,MRIで上腕二頭筋腱遠位の連続性は途絶え,上腕二頭筋腱遠位端完全断裂の診断で手術を施行した.橈骨粗面より約3cm近位に断裂を認め,断端の短縮と変性は強く,端々縫合では再断裂が危惧されたため,suture anchorを用いて長掌筋腱による腱移植を施行した.術後3か月で症状は消失した.
上腕二頭筋腱は,橈骨粗面付近で断裂しやすく,この場合の断裂は直接縫着可能であるとされる.しかし,直達外力により生じた本症例のように,断裂が粗面から離れた腱性部の場合には,術前から腱移植が必要となる可能性を考慮すべきである.