2018 年 11 巻 1 号 p. 31-34
私たちは人混みの中を歩くとき, 可能な限りぶつかることなく安全に通り抜けなければならない. このようなすき間の通過可否(通り抜けられる, 通り抜けられない)の判断はどのように行われているのであろうか. 本稿の実験では, a) 静止した2 人の間, b) 箱と箱の間において, 実験参加者が静止した状態で, 肩を回旋することなく通過可能だと判断した間隙幅を求めた. また, 人が持つパーソナルスペースには異方的構造があることから(田中, 1973), 間隙を構成する2 人の向きによっても通過可否判断が異なると考えられる. そこで, 間隙を構成する2 人の実験協力者(男性)が向かい合う条件, 背中合わせの条件, 正面(実験参加者のいる方向)を向いて並列する条件, 後ろを向いて並列する条件を設定し, 実験参加者の静止した状態での間隙の通過可否の判断について検討した. 加えて, 箱型のパネルの条件を設定し, 人と人の間を通過する場合, 箱型の障害物(パネル)の間を通過する場合での間隙の通過可否判断を比較した. 分析では, 先行研究(Warren & Whang, 1987)に倣い, 通過可否判断の指標としてπ値(“間隙幅/肩幅”)を算出し, 分析単位として使用した. 結果, 向かい合う条件でのπ値が他の条件のπ値よりも大きくなった. このことから, 実験参加者は人と人の間の通過可否判断をする際, 間隙を構成する人のパーソナルスペースの異方的構造といった社会的要因を考慮していることが示唆された.