2018 年 11 巻 1 号 p. 45-48
歩行などの“ヒトの姿勢制御に関与する感覚系は,主に視覚,前庭覚および体性感覚の3 つ”(板谷,2015)であり,評価ではアライメントや姿勢緊張から体性感覚情報に着目し解釈することが多い.しかし,片麻痺者の移動の困難性は構造物への接近による視覚情報が体性感覚情報と相互関係が築けないことにあると考える.症例は,外部環境の変化に対する姿勢制御には代償固定を選択し,視覚と体性感覚との統合が図れず非効率な歩行となって いた.そこで,移動空間への適応に向け,雑巾がけを選択し実施した.雑巾がけは, 低重心での動作であり,この視覚と床面との空間が近接した姿勢は畳の目や壁の凹凸の拡大率による遠近や,床や壁の面構造からの,奥行き知覚や光学的流動の流入を捉えやすくする. それらは,身体と空間との適応に向けた相互関係の情報となり,姿勢の安定化にも寄与し,四肢も活動的に外環境へ接触を求めることができると,視覚-運動と統合された視知覚から全身反応として移動が導かれ,症例の歩行にも変化がみられた. 今回の介入を通して,視知覚と運動は双方向性の関係があり,どのような課題遂行においても配慮するべき要素であると学ぶことができた.