2018 年 11 巻 2 号 p. 17-19
本研究は,書道熟達者1 名が16 試行を通じて「臨書」を制作するケーススタディである.本稿では臨書中の書家の視線探索に焦点を当てた.臨書と見本を交互に観察する書家の視線探索を検討した結果,頭部旋回の数は 1 文字あたり平均50.33 回(SD23.88),旋回間隔は1 文字平均0.90 秒/1 回(SD0.43 秒)と高い生起頻度を継続しており,なおかつ,旋回方向は,紙面上の位置に対して適応的だった.外的制約に対する感受性と,試行を通した一貫性を両立させた書家の視線探索は,安定性と柔軟性をあわせもつ,高度な熟達を示している.このような書家の特徴的な視覚的探索には,一度かいた線を書きなおさず,紙面に墨汁が流出しないよう,筆尖を一定の速度で動かしつづけなければならないという,書に特有な生態学的制約がかかわっていると考えられる.