理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
骨格筋再生過程におけるmyogeninとMyoDの役割
─温熱刺激を用いた比較実験による検討─
畑出 卓哉武内 孝祐藤田 直人荒川 高光三木 明徳
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キーワード: 温熱刺激, myogenin, MyoD
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p. Ae0042

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抄録
【はじめに、目的】 骨格筋再生を促進する刺激の1つに温熱がある.若宮ら(2011)は温熱刺激によって骨格再生過程が促進され,筋成熟も良いことを示した.Oishiら(2009)は,温熱刺激は筋衛星細胞の活性化を介して骨格筋再生過程を促進すると報告した.骨格筋再生過程では,初期段階として筋衛星細胞が活性化され,筋芽細胞へと分化する(Asheley et al.2005).さらに筋芽細胞は,その後筋管に分化する(Asheley et al.2005).骨格筋再生過程には,筋特異的転写因子.であるmyogeninとMyoDが関与するとされている(Sabourin et al.2000).myogeninは,筋芽細胞が筋管へと分化する際に関与するという報告がある(Smith et al.1994).一方でmyogeninは,筋衛星細胞の分化にも関与するという報告も存在する(Srikuea et al.2010).MyoDは,筋衛星細胞が筋芽細胞へと分化することに必須であるとする説(Hujibregts et al.2001)と,筋芽細胞の増殖に関与するという説(Megeney and Rudnicki.1995)が対立しているのが現状である.すなわち,骨格筋再生過程においてmyogeninとMyoDの関与は明確ではあるが,詳細な関与の時期にはそれぞれに対立する説が存在しているのである.骨格筋再生過程を促進することの出来る温熱刺激を用いた実験は,骨格筋再生過程におけるmyogeninとMyoDの新しい役割を見出せる可能性がある.よって,温熱刺激によって起こる骨格筋再生過程をmyogeninとMyoDの発現量の変化に着目し,経時的に検討することとした.【方法】 8週齢のWistar系雄性ラットを温熱群(n=11)と損傷群(n=11)の2群に区分した.筋挫傷は,露出した長指伸筋の筋腹を,500gの錘を負荷した鉗子で30秒間圧挫する事により惹起した.皮膚縫合後,温熱群では損傷5分後から42℃のホットパックにて20分間の温熱刺激を実施した.ホットパック実施中の筋温は安静時から約10℃上昇した.損傷後6時間と12時間,1日から7日の各日,14日と28日の11時点において損傷筋を摘出し,Western blot法によるmyogeninとMyoDの検出に用い,発現量の継時的変化を調べた.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い動物実験委員会の許可を得た上で実施した.【結果】 myogeninは温熱群では損傷後12時間に発現が上昇し始め,損傷後3日目にピークを迎える.損傷群は損傷後1日に発現が上昇し,損傷後4日にピークを迎えた.myogeninの発現量はピーク値を示した後,両群共に発現が一旦減少し,温熱群は損傷後4日,損傷群は損傷後5日から再度発現量が増加し始めた.その後,温熱群は損傷後14日,損傷群は損傷後28日まで発現量は緩徐に増加した.MyoDは温熱群・損傷群共に損傷直後から発現し,その発現量を損傷後2日まで保った.その後,両群共に発現量は一旦減少した.温熱群では損傷後4日,損傷群は損傷後5日から再度発現量が増加した.その後,温熱群では損傷後5日,損傷群では損傷後7日まで発現量は増加するが,それ以降に顕著な変化は検出できなかった.myogeninとMyoDの発現量はピーク値に達した後,一旦減少するが,その後再度上昇する時期は,温熱群は損傷後4日,損傷群は損傷後5日と,myogeninとMyoD共に一致した.【考察】 myogeninの発現ピークは,温熱刺激により1日早くなり,損傷後3日にその発現のピークに達する.若宮ら(2011)は,温熱刺激により,骨格筋再生過程が1日早くなることを示し,温熱刺激を加えた損傷筋は,損傷後3日に筋管が融合されていることを提示した.すなわち,温熱刺激によりmyogeninは筋管への分化を促進している可能性が示された.myogeninとMyoDの発現量が一旦減少した後,再度上昇する時期に着目するとmyogeninとMyoD共に温熱群は損傷後4日,損傷群は損傷後5日に再上昇するという興味深い一致を見せる.温熱群での損傷後4日,損傷群での損傷後5日とは再生骨格筋線維が顕著に確認されるようになり,筋管の融合も多く認められる時期である(若宮ら2011).よって,我々の結果は,再生筋の増殖や筋管の融合を促進している可能性を示唆している.【理学療法学研究としての意義】 本研究は温熱刺激により骨格筋再生の促進がもたらす詳細な生化学的メカニズムの一部を明らかにしたものである.この研究結果は筋再生促進を目的として温熱刺激を用いるための根拠になると考える.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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