2026 年 18 巻 1 号 p. 27-29
予測処理は、脳が形成する環境に関する予測信号と実際の感覚信号との誤差(予測誤差)を最小化するという観点から、知覚、身体運動、情動などを説明する理論である。予測処理に拠れば、道徳的規範は、規範的態度(社会的な制裁行動を通じて予測誤差の最小化を他者に促す態度)を伴い、かつ自らを支持する証拠が大多数を占めるような規範として理解できる。こうした道徳的規範は、社会的な規則性を予測モデルに組み込み(学習)、さらにその学習された規則性を環境の側に反映させる(社会的ニッチ構築)なかで獲得される。本発表では、この道徳的規範の獲得の過程をSituated Normativity(特定の状況において「良い/悪い」を弁別する実践的能力)の観点から考察する。Situated Normativity は、より良い環境の実現に向けた行為と本質的に結びついており、予測処理の文脈では、行為者が具体的な社会的文脈において予測誤差を最小化する能力として捉えられる。この観点から、予測処理に基づく道徳的規範の獲得に関する、適応的かつ状況依存的な側面を明らかにする。