社会科研究
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トマス・J・ジョーンズの公民教育と「ハンプトン社会科」の再評価
斉藤 仁一朗
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2014 年 80 巻 p. 69-80

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抄録

アメリカ社会科が生まれた20世紀初頭においては,大量の移民によって人種の多様性が増大していた。そこで,多くの教育者たちは,そのような多様な文化を持つ移民を統合するために,新しいシティズンシップ教育について考える必要があった。本稿で分析対象とするトマス・J・ジョーンズは,当時,社会科と人種の関係について考察した代表的な人物の一人である。ジョーンズを分析した多くの先行研究において,ジョーンズは黒人をはじめとしたマイノリティに対して,現状の苦境を受容させようとしているとして,批判的に評価されてきた。しかしながら,先行研究では,彼が子ども達に対して,社会的上昇を促している点について十分に論じていない。本稿では,ジョーンズの教育論における人種の捉え方を考察した上で,彼の教育論の再検討を試みた。その結果,ジョーンズが,生活改善や異人種間の交流を通じて,マイノリティのアメリカ社会への適応を促していることが明らかとなった。加えて,彼のそのような考え方の背景として,環境が各人種に与えている影響を意識しており,最終的に各人種の社会的上昇を促す意図があったことを明らかにした。結論として,本稿は,ジョーンズは各人種の特性に差異や優劣があることを認めていた一方で,アメリカ社会に適応できていない様々な人種に対して,適応を促し,さらには社会的上昇も促す教育論を作り出していたと論じる。最終的に,本稿は,社会科をシティズンシップ教育としての視点から再考察する際には,これまでの社会科が具体的に想定してきた各時代の多様性と社会科カリキュラムの関係を再考察する必要性を提起した。

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© 2014 全国社会科教育学会
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