2019 年 90 巻 p. 1-12
本研究の目的は,2つある。第1は,中学生の社会的思考力・判断力の発達の質的転換期である2年生後半から3年生の時期に,「批判的思考力」を育成するためには,「帰納的推論能力」,「演繹的推論能力」,「社会的判断力」のどの能力に焦点化しながら授業を構成することが効果的なのかを,歴史的分野の実験的授業を通じて明らかにすることである。第2は,実験的授業から得られたデータの分析・評価に基づいて授業仮説を得て,それをふまえた授業デザインの一例として具体的な歴史単元を開発することである。
第1の目的に対しては,歴史的分野において「太平洋戦争」を学習対象に定め,実験的授業(7単位時間)のための教授書と事後の評価テスト問題を開発し,徳島県下の中学校1校の第3学年4クラスの生徒に実施した。その結果,次のような授業仮説を得た。「批判的思考力の育成には,中学校2年生後半から3年生の時期に,その主要な促進要因である社会的判断力の育成をめざす授業の構成と実践が必要である。」
第2の目的に対しては,授業仮説をふまえた授業デザインとして,歴史的分野単元「女性と戦争」(3単位時間)を開発した。単元は,戦時(1931年~1945年)の「女性の戦争協力・責任」を評価・判断する学習(3パート)から自己の評価・判断基準を対象化し吟味する学習(1パート)へと展開する構成とした。