社会科研究
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成人教育論に基づく社会科研修プログラムの開発 ―カンボジア教育省の教科書開発者を対象に―
守谷 富士彦
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2022 年 96 巻 p. 1-12

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抄録

 本研究は,社会科を担う専門職者への研修はどのようにデザインされるべきかを明らかにするため,カンボジア教育省の教科書開発者を対象に,成人教育論に基づく研修プログラムを開発・実践し,その成果を評価したものである。人間中心主義のアンドラゴジーを理論的根拠として,教科書開発の専門職者として自律的に意味生成できる3ヵ年研修プログラムを開発した。そして,認知主義の経験学習論を研修デザインの理論的根拠として,教科書開発の知識・技能を習得できる年間研修プログラムを2018年度に組み込んだ。その後,2018年度の研修に中核的に参加した4名の学習者を抽出し,インタビュー調査を行うとともに,成果物を収集した。

 学習者による研修経験への意味生成を分析した結果,4名間に学びの多様性があった。アンドラゴジーにより研修学習者のニーズや悩みを適切に評価して尊重しながら事業が進んだことで,学習者は自己実現に向けて自律的に学ぶことができたと考えられる。また,成果物のモデル教科書を分析した結果,学習者は研修で学んだ知識・技能を応用し教科書に再現できていた。経験学習論の学習サイクルによって教科書開発の知識・技能を抽象的概念化したことで,再文脈化しながら職務に応用させる能動的実験の主体性を生み出したと考えられる。

 本研究により,社会科研修のデザインでは理論的根拠が必要であること,そして指導と評価を問い直すことが示唆された。社会科研修は成人教育論に基づいて多様なニーズをもつ学習者を包摂し,社会科の理念と専門職者の自己実現を整合させるように構成されるべきだろう。社会科教育学が子どもではなく大人,授業ではなく研修を対象に,開発方法論を検討できることを本研究は提起している。

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© 2022 全国社会科教育学会
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