2020 年 20 巻 01 号 p. 148-163
しかし,その一方で小学生の英語嫌いの増加や中学生の英語苦手意識の増大,低学力など英語教育を取り巻く環境は必ずしも楽観視できない。本研究の目的は,実際の言語使用を理論的基礎とする用法基盤モデル(Usage-Based Model: UBM)の言語習得観にもとづいた小学校英語の実効性を検証することである。用法基盤モデルの言語習得観では,具体的な場面や状況での形式と意味の対応づけ(マッピング),高頻度(トークン頻度とタイプ頻度)での言語経験,言葉によるコミュニケーション活動や文法の発現に果たすプレハブ表現(Prefabricated Expressions: PE)の役割,これら3要素を重視する。 言語習得の初期段階においては,特にPE が言語発達に重要な役割を果たすとされる。これらの知見の有効性を検証するため,公立小学校2校で実践研究を実施した。その結果,児童は構造化されたやり取りを流暢に行い,自信をもって英語を使用できるようになることが明らかになった。さらに,多様なPE を計画的,継続的に導入することより,類似した表現からパタンを抽出することによって表現枠を構築し,それにより文法の発現へとつながる発話も観察された。このようにUBM の言語習得観にもとづく小学校英語の実効性を確認できたが課題もいくつか残された。 英語が小学校の教育課程に本格的に導入され,いよいよ新時代の英語教育が始まろうとしている。