2021 年 21 巻 01 号 p. 82-94
初学者の語彙学習では,母語の語彙知識を生かして学習することが効果的であると考えられている。母語の語彙知識の一つとして,単語同士の意味的関連性 (語彙ネットワーク) がある。母語においては,ある語がどのような語と共に使用されるかというシンタグマティックな意味的関連性と,同義語や上位・下位語の関係を表すパラディグマティックな意味的関連性が,同程度に強く結びついている(佐藤, 2014a)。このような母語における意味的関連性を利用してL2 語彙を学ぶことは,初学者の語彙習得に効果的であることが明らかになっている (Aitchison, 2012; Fitzpatrik & Izura, 2011)。本研究では,意味的関連性の強い母語の単語同士の結びつきをもとにした英語絵本を作成し,どのような意味的関連性に基づく絵本を利用して学習をすると,小学生が意味を習得しやすいのかを検証した。授業では,各意味的関連性に基づいて作成された絵本を教師が読み聞かせることで,語彙学習を行った。学習の直後に,絵本の中で目標語と共に提示されていた意味的関連性の強い語の絵 (手がかり) をヒントに目標語を聴解するリコール課題で理解度を検証したところ,シンタグマティックな関連性に比べてパラディグマティックな関連性を利用した方が正答率が高かった。その1 週間後,遅延リコール課題を行ったところシンタグマティック条件でも正答率が上昇した。さらに1 か月後に再度リコール課題を行ったところ,どちらの条件でも記憶は保持されていた。これらの結果から,母語の意味的関連性に基づいて作成した絵本を利用した読み聞かせは,小学生の語彙習得に効果的であると言える。