抄録
インドネシアの天然沈香の旧輸出割当制度は,科学的根拠の欠如,無許可取引の横行,外部者による過剰採集の放置により,沈香の枯渇や地域社会の利益損失を招いたとして批判されてきた。本稿は,ワシントン条約の働きかけに応じて
2000年代半ばに整備された新輸出割当制度が,天然沈香管理に何をもたらしているのかを,上記の3つの問題に着目して旧東カリマンタン州の事例から検討する。制度の仕組みについては法令文書を分析し,制度の実施については国,州,村レベルの関係者に聞き取り調査を行った。新制度は,多様な関係者が実施するモニタリングをもとに割当量を決める仕組みだったが,実態はモニタリングが不十分な中で特定の関係者の意向を反映した割当量が決められていた。また,村,州,国の各段階で無許可取引を防ぐ仕組みだったが,実態は割当量の3倍以上の無許可取引があると推計された。一方,新制度は外部者の採集が優先されうる仕組みだったが,実態は慣習法が地域住民の採集を優先するよう統制していた。新制度は,科学的根拠と無許可取引の問題を解決しない一方で,政府側に管理改善の根拠に利用されることで問題の存在を見えづらくしていた。