抄録
企業における自然資本管理を取り巻く環境は近年大きく変化している。特に企業の自然資本評価と情報開示についての動向は自然関連財務情報開示タスクフォース (TNFD) の提言発行以降,注目が高まっている。本稿では,企業の自然資本関連情報開示の枠組みであるTNFDについて概説し,企業対応の現状と課題,アカデミアに求められる貢献について,特にTNFD賛同企業の開示状況と自然資本評価ツールの使用実態分析をもとに論じる。2023年の自然資本情報開示は,2019年と比較し全体として向上していたものの,課題点として,(1) 評価プロセスの透明性,(2) 地域特性の考慮,(3) 自然関連リスク分析範囲の網羅性の三点が挙げられた。林業経済学分野としては,研究蓄積のある生態系サービスの経済的評価をもとに,企業と自然資本の関係を経済的価値として把握する研究を推進することで企業の持続可能な自然資本管理への貢献の余地がある。