日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: P1057
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立地I
落葉の樹種による違いが土壌の窒素無機化に及ぼす影響
*石井 秀一戸田 浩人生原 喜久雄
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抄録
I はじめに窒素(N)は植物体がタンパク質を合成する上で不可欠な元素である。森林生態系において樹木が直接吸収できるのは土壌から供給される無機態のNである。土壌中における無機態N濃度は全N濃度の1%以下に過ぎず、土壌微生物によるN無機化の活性に左右される。さらに、C/N比が分解のしやすさの指標となることからも分かるように、Nの無機化は有機物の組成に影響を受ける。したがって、土壌への主要な有機物供給源である落葉(リタ__-__フォール)の違いは土壌のN無機化活性、土壌中の無機態N濃度や形態に影響を及ぼすと考えられる。本研究では同一の土壌を用い、同一の環境下において異なる樹種の落葉をそれぞれ設置した時に、樹種の違いが土壌中のN無機化量や無機態Nの形態変化に及ぼす影響を調査した。II 実験方法 丸1 実験地・実験地設定本学農学部苗圃のミズキ林下にて、木製の枠(35×35×高30cm)を設置した(全22区)。枠は下部を地中に10cm埋め込み、枠内の土壌は取り除き、枠下端から上方15cmまでに本学FM大谷山の斜面下部スギ林のA層から採取した土壌を17kg(生重)ずつ入れた。土壌は事前に10mmのふるいにかけ、礫と根をできるだけ取り除き、よく攪拌し均一にした。その上にミズナラ・コナラ・ケヤキ・シラカシ・スギ・アカマツ・マダケの落葉150g(生重)を1枠につき1樹種ずつ入れた。ブランクも含め1樹種につき3枠の繰り返しとし(マダケのみ1プロット)、樹種の配置は無作為抽出法によって決定した。丸2 土壌の採取方法設置(2002年7月2日)してから20日後(同年7月22日)、85日後(同年9月25日)、115日後(同年10月25日)、185日後(2003年1月3日)に土壌を採取した。採取には直径4cm長さ6cm肉厚1.5mmの塩ビ管を用い、表層から6cmまでの土壌を0-2、2-4、4-6cmの深さ別に採取した。採取した土壌は4mmの円孔フルイにかけた。丸3 分析項目・分析方法採取土壌の深度別に、pH(H₂O)、アンモニア態N(NH4-N)濃度、硝酸態N(NO3-N)濃度を測定した。185日後の採取後、設置した落葉(A0層)をすべて回収し秤量した。全C濃度、全N濃度の測定を、設置時と185日後の、落葉・土壌それぞれについて行った。また設置時と185日後の土壌の一部を用いてビン培養法によるN無機化速度の測定を行った。III 結果と考察丸1 土壌中の無機態N濃度およびpH(H₂O)経時変化深さ0-2cmの土壌における無機態N(NH4-N+NO3-N)濃度の経時変化を図-1に示す。NH4-N濃度はミズナラ区が20日後に30mg/kg、コナラ区が85日後に40mg/kgのピークとなり他の区より高かった。NO3-N濃度はミズナラ区が20日後に、マダケ区が85日後に50mg/kgを越えるピークとなり、他の区より著しく高かった。ミズナラ区はNH4-N、NO3-Nともに高く、コナラ区はNH4-N濃度は高いが硝化へと進まず、マダケ区は硝化が著しかった。その結果、無機態N濃度はミズナラ区が20日後に80mg/kg、コナラ区とマダケ区が85日後に60mg/kgのピークとなった。その他の区では明確なピークが見られなかった。2-4cm、4-6cmと土壌が深くなるにつれて全体的に無機態N濃度が低かった(図省略)。落葉の影響は、表層でより大きいといえる。深さ0-2cm土壌のpH(H₂O)は硝化の著しかったミズナラ区の20日後と85日後で低かった。また、どの区も115日後、185日後にはNO3-N濃度が減少し、pH(H₂O)が上昇した。pH(H₂O)とNO3-N濃度の間には強い負の相関(r=0.805)があり、硝化によるH+生成の影響が示唆された。丸2 落葉の重量およびC/N比の変化185日後に落葉の重量減少が多かった樹種はマダケ(-100g)、ミズナラ区(-70g)ついでシラカシ区(-60g)であり、他の区は20__から__30gの減少であった。開始時(0日)のC/N比はマダケ、シラカシ、ケヤキ、ミズナラで23__から__34と低く、これらは185日後にすべて20前後に減少した。NH4-NとNO3-Nともにピークの濃度が高かったミズナラ区とマダケ区では、C/N比が低く、落葉の重量減少が多く、分解が速いといえる。一方、NH4-N濃度のピークは高いもののNO3-N濃度の低いコナラ区は、C/N比がやや高く落葉の重量減少が少なかった。またシラカシ区やケヤキ区ではC/N比の低さや落葉の重量減少量の多さからすると、ミズナラ区、マダケ区、コナラ区ほど土壌の無機態N濃度に影響がみられなかった。IVまとめ ミズナラ区やマダケ区においては落葉のC/N比が林床での分解速度に影響を及ぼし、落葉重量減少の多少を決定し、土壌におけるN無機化や硝化を規制していると言える。しかしコナラ区・シラカシ区・ケヤキ区のようにC/N比、落葉の重量減少と、土壌のN無機化や硝化の関係が明確でない樹種もあった。これには易分解性C量やN量の多少、無機化されていない微細な有機物の土壌への混入の差異などが影響しているものと考えられる。
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© 2003 日本林学会
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