抄録
1.はじめに マツノマダラカミキリ(Monochamus alternatus)(以下、カミキリと略す)はマツ材線虫病におけるマツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)の主要な媒介者である。このカミキリの生態に関する研究は多くあるが、成虫の日周活動についての報告は少なく、野外における観察が主であった。 これまでの研究から、カミキリは夜行性と考えられてきたが、野外ではカミキリ成虫の活動は気象条件などに影響されることが考えられた。このことから、野外条件だけでなく、気温や降水量など活動に影響を与える要因をできるだけ排除した条件下での調査が必要と考えられた。演者は2002年に野外条件と恒温条件において、カミキリの羽化脱出頭数、後食量、マウント数、野外のみで産卵痕数を4時間ごとに調査したので報告する。2.材料と方法 4時間ごとの調査は、0時(20__から__0時)、4時(0__から__4時)、8時(4__から__8時)、12時(8__から__12時)、16時(12__から__16時)、20時(16__から__20時)に行った。また、調査はすべて東京都府中市の東京農工大学構内で行った。 羽化脱出頭数の調査は、前年冬に伐採したマツ枯損木を林内にはい積みした後、5月中旬に野外網室と25℃恒温条件に設定した恒温室に搬入し、野外条件では7月1日から8日まで、恒温条件では6月20日から28日まで4時間ごとに連続で行った。恒温条件における光条件はLD14:10とした。 後食量の調査は、個体飼育と集団飼育で行った。個体飼育は、7月22日から26日に、♂5♀5合計10頭を、1頭ずつ子供用虫かごに入れ、野外では林内の高さ1.5m程度に吊るし、恒温条件では25℃恒温と、昼25℃夜18℃に設定したそれぞれのファイトトロン内に直射日光を避けて置き、4時間ごとに7__cm__程度のマツ切り枝を交換し、後食面積を測定した。集団飼育は、7月17日から20日に、♂5♀5合計10頭を、野外では電話ボックス型網室(高さ200__cm__、幅90__cm__、奥行き90__cm__)、恒温条件では25℃恒温に設定したファイトトロン内に設置した小型の網室(高さ50__cm__、幅40__cm__、奥行き60__cm__)に放虫し、後食枝として当年枝から3年枝までついた枝(100__cm__×80__cm__程度)を時間帯ごとに2本ずつ用意し、4時間ごとに交換して、後食面積を測定した。集団飼育においては、4時間ごとにマウント数も記録した。 産卵痕数の調査は、8月9日から12日に、既交尾♀10頭を、産卵用餌木を入れた野外網室に放虫し、4時間ごとに産卵痕数を記録した。3.結果と考察 野外条件と25℃恒温条件におけるマツノマダラカミキリ成虫の日周活動を図__-__1に示す。野外条件では、羽化脱出頭数は夕刻に多く、後食量は個体飼育、集団飼育とも日中に多く、マウント数は夜間の20__から__0時と、日中の8__から__12時も多く、産卵痕数はマウント数と同様の傾向を示した。一方、恒温条件では、羽化脱出頭数は夜間に多く、後食量は、個体飼育では夜間に、集団飼育では朝方から日中に多く、マウント数は深夜から朝方に多かった。恒温条件の個体飼育と集団飼育において後食の活発な時間帯に差が生じたのは、集団飼育では追いかけやマウント、交尾などによる後食行動の阻害が原因と考えられた。 野外条件と恒温条件では日周活動に違いがみられた。恒温条件では、諸活動は主に20時から8時に活発であり、夜行性を示した。これと比較すると、野外では0時から8時の活動はそれほど活発ではなかったが、この時間帯の気温の低下がカミキリの行動を緩慢にしたためと考えられた。つまり、カミキリの日周活動は1日の気温の変動に大きく影響を受けると考えられた。