抄録
1. 目的 近年、地球的な規模で環境変化が問題となっているが、その中でも地球温暖化は深刻であり動植物の成長(初鳴や発芽、開花、落葉等)に大きな影響を与えていると考えられる。欧米では生物季節を用いた研究は見られるが、東アジア、特に日本では豊富なデータが蓄積されているにも関わらず、生物季節を用いた研究はサクラとイチョウを除いてほとんど見ることができない。そこで本研究では日本におけるアブラゼミの動物季節(初鳴日)の長期変動について解析を行い、また気温変動との関連性についても解析を行った。2. 使用データ及び解析方法 動物季節の解析に使用したデータは気象庁が集計している生物季節観測値のアブラゼミの動物季節(初鳴日)である。解析に使用したデータは全国77地点、1953年__から__2000年までのデータを使用した。気温データは気象庁の日別気象データ(通称SDPデータ)を用い、動物季節データで使用した同じ地点(77地点)、1961年__から__2000年までのデータを使用した。アブラゼミの動物季節について1年毎に各地点の観測値を全国で平均した値を算出し、1次回帰分析を行いその傾向を調べた。さらに、前述した1年毎のデータを使用して、1961__から__2000年までのアブラゼミの長期変動と気温の長期変動との相関関係について解析を行った。動物季節の長期変動の変化率は地域によって違いが見られたため、本研究ではその変化率の原因についても調べた。本研究では動物季節を月日で表すのではなく、解析で使用しやすいようにDOY(Day of Year)を使用した。DOYとは1月1日を1として、12月31日を365とする表し方である。3. 結果と考察(1)動物季節の長期変動 アブラゼミの動物季節の長期変動を解析した結果、0.35days/decadeの変化率で早期化していることがわかった(有意水準10%未満で有意な傾向である)。動物季節は1953年__から__2000年までのおよそ50年間で1.68日早期化しており、1980年代後半からその傾向が顕著になっている。(2)気温の長期変動 気温の長期変動を解析した結果、0.28℃/decadeの変化率で上昇傾向にあることがわかった(有意水準1%未満で有意な傾向である)。日本の平均気温は1961年__から__2000までの40年間で1.1℃上昇したことになる。1980年代以降は周期的な変動が見られるものの、長期的には温暖化傾向が急激に強まったことが見受けられる。動物季節と気温の長期変動のグラフを示す(図-1)(3)動物季節と気温の相関関係 動物季節と気温との相関関係について解析したところ、両者の間には高い相関関係が認められ(|r|=0.75、有意水準1%未満で有意な傾向である)、気温がアブラゼミの動物季節に大きな影響を与えていることがわかった。動物季節と気温の相関関係をグラフに示す(図-2)。グラフから年平均気温が1℃上昇した場合、動物季節は4.07日早期化することがわかる。(4)動物季節変化率の地域差の原因 生物季節の変化率(days/year)の地域性は気温の変化率の違いが原因であるとこれまで定性的に言われてきたが、本研究では両者の間に有意な関係は認められなかった。そこで、地点により気温応答性にかなりの違いが見られることから、この違いと動物季節変化率との関係について解析を行った結果、有意な相関関係が認められた。このことより、動物季節変化率の違いは気温応答性の違いによることにより引き起こされていると考えられる。 なお、本研究において日本気象協会の友村光秀氏には日別気象データの提供など大変お世話になりました。ここに感謝の意を表します。