日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: F10
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生態
成立過程の異なる里山林の植生比較
__-__神奈川県立七沢森林公園を中心として__-__
*早津 宏美
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キーワード: 里山
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抄録

【研究の背景と目的】 里山とは、森林のほか畑・水田・草地などの農村景観構成要素をすべて含んだものをさす。人と密接な関係にあった里山では、時間の流れの中でさまざまな変動がおきてきた。里山林はその中の森林部分に相当し、薪や炭を得るために利用されていた。定期的な伐採・育成の管理サイクルがあり、ひとつの里山林にはさまざまな遷移段階の林が展開していた。しかし1960年代に起きた燃料革命によって里山林は利用されなくなり、放置されたまま現在に至っている林が多い。それだけではなく、現在の里山林は旧薪炭林の他に耕作放棄によって生じた成立過程の異なる林が混在した状態にあることが確認された。 近年このような里山で生物多様性を目的とした里山保全活動が行われるようになってきている。また、里山林の生物多様性についての研究報告もある。しかし履歴の異なる林が混在していることに着目し、その植生を比較した研究はなく、またそのようなことを考慮した里山林管理も行われていない。林の履歴が異なれば当然植生も異なると推測する。したがって本研究では過去の土地利用が植生に与える影響を調査し、今後の里山林管理へ提言する。【調査地および方法】 調査地は神奈川県厚木市にある七沢森林公園・同県鎌倉市にある鎌倉中央公園・同県相模原市にある木もれびの森である。各調査地とも旧薪炭林のほかに成立過程の異なる林が混在している。現地踏査により林内の地形と林冠構成種の樹形が萌芽または単幹のどちらかという点からそれらの林を4区分した。そして旧版地図・空中写真・文献および聞き取り調査を基に里山林の過去の土地利用を明らかにし、林分ごとの植生調査を行い、旧立地が植生に及ぼす影響を考察した。【結果および考察】 4区分した林は植生調査の結果3つに分けられた。第1の林は薪炭林以外の土地利用が認められず、林冠構成種は萌芽したコナラ・クヌギが中核樹種であり、林床にはシラヤマギク・ヤマユリ・コウヤボウキ・ガマズミなどの関東地方の典型的な里山を構成するクヌギ__-__コナラ群集・オニシバリ__-__コナラ群集に属す種が確認された。この林を「雑木林」と呼ぶ。第2に過去に耕作地の利用が認められ、耕作放棄されてからの経過年数が40年前後の林分の林冠構成種には、単幹のコナラ・先駆性樹種のミズキ・常緑樹などが多く、林床には雑木林に見られた種はほとんどなくイヌタデ・ハルジオン・コハコベなどの耕作地や耕作放棄地に見られる種が確認された。この林を「再生雑木林」と呼ぶ。しかし、林内の地形は再生雑木林と同様でありながら、地図や空中写真、聞き取り調査では過去の土地利用として薪炭林しか明らかとならず、旧立地の利用が停止してからの経過年数がわからなかった林分では林冠・林床の構成種が雑木林と同様であった。この林を「半雑木林」と呼ぶ。 このように一見同じ林でも成立過程により林の構成種に違いが認められ、特に林床において植生が大きく異なることが明らかとなった。また履歴が異なる林の間でも植生に違いが見られたのは、林を構成してからの経過年数とその後の薪炭林利用による管理の有無が影響していると考 えられる。さらに、そのような林が森林以外の土地利用しか認められない林と同様の植生になるには50年以上かかることが示唆された。したがって今後、生物多様性を考慮した里山林管理計画を立てる際には、過去の土地利用を把握し、どのタイプの林でどのような管理を行うのかを決めることが管理の効果を高めことになるといえる。

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