日本薬理学雑誌
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総説
脳虚血・再灌流後の脳内Zn2+の動態変化とグリア細胞
東 洋一郎新武 享朗清水 翔吾清水 孝洋齊藤 源顕
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2019 年 154 巻 3 号 p. 138-142

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抄録

亜鉛は多くの生体機能に関与している必須微量元素である.哺乳類の脳内において,多くの亜鉛はメタロチオネインなどタンパク質と結合して存在しているが,一部の亜鉛は大脳辺縁系の海馬におけるグルタミン酸神経細胞のシナプス小胞内に遊離型亜鉛(Zn2+)の状態で貯蔵されている.このようなことから,学習・記憶など重要な脳機能を維持するために脳内のZn2+濃度は制御されていると考えられている.その一方で,脳内Zn2+の恒常性維持の破綻はアルツハイマー病や脳卒中などの脳疾患における神経細胞死のメカニズムとして認識されている.特に,脳虚血・再灌流直後には海馬グルタミン酸神経細胞から大量の貯蔵Zn2+がシナプス間隙へ放出され,これを取り込んだシナプス後細胞や神経細胞内の亜鉛結合タンパク質から遊離したZn2+によって細胞内Zn2+濃度が上昇すると細胞死が惹起される.近年,このような脳虚血・再灌流後の脳内Zn2+の動態変化がミクログリアをはじめとするアストロサイトやオリゴデンドロサイトなどグリア細胞の生存や機能変化に関与することが明らかになってきた.虚血刺激が負荷されたオリゴデンドロサイトでは細胞内Zn2+集積が引き起こされミトコンドリア傷害を介した細胞死が惹起され,過剰な細胞外Zn2+に暴露されたアストロサイトはグルタミン酸トランスポーターの機能が低下することが報告されている.一方,ミクログリアは脳虚血後に神経細胞から過剰放出されたZn2+を取り込むことによりプライミングされ,その後のM1型極性誘導による炎症性サイトカイン産生が促進されることを見出している.本稿では,脳虚血・再灌流後の脳内Zn2+の動態変化が引き起こすグリア細胞への影響に着目しながら一過性脳虚血の病態への関与について概説する.

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