日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: D09
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T8 森林土壌におけるガスの動態
北海道中央部の人工林5林分におけるメタン・亜酸化窒素の吸収・放出
*寺澤 和彦石塚 成宏阪田 匡司高橋 正通大野 泰之山田 健四
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抄録
1.はじめに 強力な温室効果を有するメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)は,二酸化炭素と同様に大気中での濃度が20世紀後半以降に急増しており,近年の地球温暖化の原因の一つと考えられている。日本の一般的な森林はCH4に関しては吸収源,N2Oに関しては放出源とみなされるが,吸収・放出量についてはデータが乏しく,伐採など森林施業の影響も明らかではない。そこで,日本全国の様々な森林や土壌のタイプにおけるCH4とN2Oのフラックスを統一手法で測定するとともに,施業の影響を明らかにするための共同観測網が2002年に構築された。ここでは,北海道の5カ所の調査地における測定結果の概要を報告する。とくに山地林と湿地林の違い,積雪期のフラックス,施業(皆伐)後のフラックスに焦点をあてる。2.調査地と方法 北海道のほぼ中央部に位置する5カ所の人工林で調査を行った(表_-_1)。調査地の年平均気温は5.9_から_6.6℃,年降水量は1,195_から_1,416mmである。 各調査地の地表面(A0層を含む)におけるガスフラックスを非通気型密閉チャンバー法によって測定した。すなわち,ステンレス製円筒型チャンバー(直径40cm,高さ15cm)をそれぞれ5個ずつ設置して,チャンバーを密閉後0分,10分,20分,40分に内部空気を40ml採取し,CH4とN2Oの濃度をガスクロマトグラフによって測定した。 ガスフラックスの測定は2002年8月から2003年9月まで毎月1回行った。調査地No.2とNo.5の2カ所では冬季も測定を継続した。積雪時のフラックス測定は,降雪前から地表面に設置してあったチャンバーを用い,測定のたびにチャンバー上部の雪を取り除いて無雪期と同様に行った。調査期間における最大積雪深はNo.2では90cm,No.5では190cmであり,地温(5cm深)は0℃を下回ることはなかった。 調査期間中は地温と土壌水分(いずれも深さ5cm)をそれぞれサーミスタとTDRによって1時間間隔で記録した。 なお,ここでのフラックス値の符号は,正が上向き,負が下向きを示し,それぞれ土壌からの放出,土壌への吸収を表す。3.結果と考察(1)無雪期のガス・フラックス 無雪期のCH4フラックスは,山地斜面の4カ所(No.1_から_No.4)では,-1.14_から_-2.80 mgC m-2d-1であり,調査地間の違いは明らかではなかった。それに対して,山地河川沿いの湿性地に位置するNo.5では,-0.06_から_-0.58 mgC m-2d-1であり,CH4吸収フラックスは山地に比べて著しく小さかった。 一方,無雪期のN2Oフラックスは,いずれの調査地でも小さく,測定精度上の下限値以下の場合が多かった。しかし,測定日によっては250μgNm-2d-1以上の高い放出フラックスを示す調査地やチャンバーがみられた。(2)積雪期のガス・フラックス 積雪期にもCH4吸収フラックスがみられた。山地斜面のNo.2では-1.16_から_-1.55 mgC m-2d-1,湿性地のNo.5では-0.03_から_-0.49 mgC m-2d-1であった。 積雪期のN2Oフラックスは小さく,ほとんどが検出下限以下であったが,No.2では3月に245μgNm-2d-1の放出がみとめられた。 今回の冬季のフラックスは,積雪を除去して地表面で測定しているため,冬季の定常状態でのフラックスとは異なると考えられる。しかし,とくにCH4では比較的大きな吸収フラックスが毎回観測されたことから,低温でもCH4酸化が継続していることが示唆される。(3)森林施業の影響 2003年1月に皆伐し5月に地拵えを行ったトドマツ皆伐区(No.4)では,対照区(No.2)に比べて夏季の地温が1_から_2℃高く,土壌の体積含水率が0.06_から_0.07 m3m-3高く推移した。CH4吸収フラックスは,皆伐区では対照区より低い傾向がみられ,皆伐にともなう表層土壌水分の増加の影響が示唆された。 N2O放出フラックスも皆伐区では対照区より高く推移した。
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© 2004 日本林学会
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