日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: D15
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T8 森林土壌におけるガスの動態
森林流域におけるN2Oの時空間分布とその生成過程
*尾坂 兼一大手 信人木庭 啓介中島 拓男勝山 正則川崎 雅俊
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キーワード: 亜酸化窒素, 地下水
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抄録
亜酸化窒素(N2O)は、温室効果の強いガスの1つであり、近年森林からの放出が重要視されてきている。また大気中のNOXが増加し、森林への窒素負荷が増大することによって、森林からのN2O放出量が増大する可能性が指摘されている。これらに対応して、今後森林でのN2O放出量を予測するためにはその生成メカニズムを明らかにする必要がある。森林流域ではNO3-を含んだ地中水が浅層地下水帯で還元されている可能性が多くの研究で示されており(例えばMcDowell et al. ,1992)、表層地下水中における脱窒によりN2Oが生成されている可能性が示唆される。またN2Oは溶解度が高いため地下水に溶存し輸送されることも考えられる。しかしこれまでの森林におけるN2Oの生成メカニズム、放出量に関する研究は表層土壌を対象にしたものが多く、森林土壌深部の地下水帯での生成、輸送に関する知見は少ない。そこで本研究では不飽和土壌層、地下水帯を含め森林流域単位でのN2Oの空間分布、生成メカニズムを明らかにすることを目的とした。観測は滋賀県南部の田上山地に位置する桐生水文試験地内マツ沢流域(0.68ha)で行った。流域末端には地下水帯が存在する。流域内の4地点で土壌ガスを、11地点で地下水を採取した。流域末端の湧水点で湧水を、流域出口で渓流水を採取した。また湧水点ではクローズドチャンバー法でN2Oフラックスを測定した。採取した土壌ガスからN2Oガスを、試料水からは溶存N2Oガス、各種イオン成分、溶存有機炭素(DOC)、溶存酸素(DO)を測定した。不飽和土壌層中の平均N2O濃度は、最大で大気N2O濃度の2倍程度であった。これに対して地下水中の溶存N2O濃度は最大で大気N2O平衡濃度の約25倍であった。また湧水点での溶存N2O濃度は、流域末端の表層付近の地下水の溶存N2O濃度と同レベルにある。しかし渓流水では大気N2O濃度と同程度まで低下している。このことからN2Oは表層地下水から湧水にかけて高濃度であるが、湧水点から渓流水として流下する過程で脱気していると考えられる。土壌N2Oガス濃度勾配から算出した斜面部でのN2Oフラックスは0.006_から_0.015kg/ha/yrであった。これに対しクローズドチャンバー法で算出した湧水点におけるN2Oフラックスは0.940kg/ha/yrであり湧水点のN2Oフラックスのほうが非常に大きい。これは湧水点から脱気したN2Oが影響している地下水帯でも最も溶存N2O濃度の高かったGBのみN2OとDOの間に高い負の相関関係が見られた(R2=0.81)。一般にN2O生成量はNO3-やDOCなどの基質量と酸素濃度に影響されると考えられる。GBではDOCが平均5.65mg/lと非常に高いがNO3-は2.69mg/lと流域の平均的な濃度である。このことからGBでのN2O生成はDOのみにコントロールされ、基質量に制限されていないことが示唆される。地下水帯内でもさらにDOCの供給量が多いところで、DOの低下に伴って集中的にN2Oが生成されていることが推測される。              本観測の結果、森林内でN2Oは主に地下水中で生成し、湧水点で大気にふれることにより脱気することが示された。つまり流域単位でのN2O生成、流出過程において地下水の動態が非常に重要であるといえる。
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© 2004 日本林学会
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