抄録
_I_ はじめに 近年、中国での植林活動は盛んに行われている。国内では「退耕還林(草)」国家プロジェクト等「生態建設工程」の正式スタートにつれてかつてないほど植林を重視されつつ、海外からも民間団体を中心に中国各地で協働型国際協力が進んでいるように思える。しかし、様々な要因で森林と社会を総合的に捉え,より良い「共同体」を創出するために,多様な人々が対等な立場で協力しあって協働・パートナーシップの形成は未だに課題が多いと思われる。そこで、本研究は東大「緑促会」の植林活動を事例として筆者自らの体験や調査を通じて、植林事業の効果や現場が抱える問題や隠蔽されている現状を把握し、中国社会における地域「森林共同体」形成の可能性を探ることを目的とした。_II_ 植林事業の概要と調査の方法 「緑のプロジェクトと環境教育林事業」は、中国雲南省の元麗江県・竜幡郷?大具郷?石鼓鎮?石頭郷の川沿いにて「緑促会」が,地元政府と地域住民および小中学校と協力しあって洪水防止や荒廃地の修復・自然生態系の回復および人々の環境意識を高めることをめざす事業である。事業区面積は合計約30ha程度であるが,その土地は農家と村が所有している。事業は、「学・官・民」が協働で施行されてきている。「学」が地域社会の基本構造を尊重しながら事業企画し,学際的・国際的NGO活動として実行の際には「官」の支持を得てなるべく「地域住民」の立場から物事を進めていくボトムアップ型をとっているところに特徴がある。調査の方法は毎回の事前やり取りや実施過程の中で現地関係者60人(学生と官・民)に植林の意見や事業参加の感想などを伺い、一年後には植林地の実態調査や人々の意識構造を再把握する。__III__ 結果と考察 事業実施の結果、生態的側面という観点では,事業区の規模はまだ小さいが荒廃地の修復や生物多様性の増加など一定の成果をあげてきていると言える。経済効果においてはそれほど大きく見られないが事業区周辺の村人の生活水準は,ここ3年間の回答結果は,「よくなった」が50.0%,「ややよくなった」が33.3%,「変わらない」が13.3%,「やや悪くなった」3.3%であった。したがって,事業区に隣接する村の経済状況は少しでもよくなってきていると言えるだろう。また、社会的側面の重要な指標である「地域の受容性」を見る上で,地域住民が,「緑のプロジェクトと環境教育林事業」に対してどのように評価しているのかをみてみると、「たいへんよかった」が44.6%,「よかった」が47.3%,「少しはよかった」が1.4%,そして「よかったとは思わない」「わからない」は0%であった。この結果から地域住民は,事業を非常に高い評価をもって受け入れていると言ってよいだろう。その中でも「土地緑化」や「紛争解消」と「環境教育」などの役割が特に評価された。また、海外の参加者たちは現地の歴史文化や自然、人びとのくらしなどから、21世紀にあるべき地球環境の保全や国際協力の将来像、子供の教育あるいは個人生活のありようについて考えるようになり、現地住民も感銘を受けてかつての破壊的「開発」を反省し、自ら少しずつ身近な森林や長江のこと、そして植林活動など自然再生事業に関心を持つようになりつつ、これまで深刻になっていた林地をめぐる村落同士の紛争や人々の憎しみも著しく緩和してきている。そして、図のように生態系の保全と持続的管理を中心とした地域「森林共同体」への移行も可能と考えよう。 ただし、問題点を幾つかあげると、森と人々の共生関係・親しみは未だに緊密とは言えず、森林の公益的機能や生物多様性の価値認識がまだ不充分であり、土地所有形態や利用方式の改善余地があり、地域共同体のリーダーシップが欠如しており、国家プロジェクトの現地実行にも多くの問題が抱えている。そこで、筆者は地域の伝統的な小範囲人間関係から集団的協働への変化や植林地を長期にわたって管理する森林共同体を提示したい。「重層的性格をもつ集団内部において、平等な個人成員を基礎とした連帯に発展させ、それを通して組織の客観的存在性を確立する」。成功する共同体では、行為決定や紛争解決において農民を導くリーダーが必要であり、研究者など「知的人間」はまずそれを担って活動を通じて人材を育成する。そして、地域「森林共同体」による土地と森林の持続的・文化的地方管理を図るべきであろう。__IV__ おわりに 中国における森林をめぐる協働・パートナーシップについて課題は様々残っているが「緑促会」の活動事例から「森林共同体」形成の可能性は十分あると考えられる。