日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: J06
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林政 II
上下流域をつなぐ木材流通に関する研究
愛知県豊根村木サイクル事業を事例として
*島田 倫之
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抄録

研究の背景と目的
 産直住宅、地域材利用といった取り組みは林業経営、林産業を通じ山元への還元ひいては山村地域の活性化を促し、森林施業へのインセンティブとして機能することが望ましいと考えられる。また政策間伐や自己間伐作業で生じる小径木の有効利用も依然として我が国林業の抱える課題である。本研究は山村地域、特に民間資本の参入条件に乏しい地域における間伐問題、間伐小径木の市場問題解決策を提案することである。今回の報告では、東三河林業地の愛知県豊根村における「木サイクル事業」を事例に、山村から消費者への望ましい木材流通のあり方について考察することとした。
豊根村木サイクル事業の概要
豊根村は長野県、静岡県と境を接する愛知県の東北端に位置し、総面積は121.13k_m2_このうち92.6%は林野である。かつては良質のスギ、ヒノキの産地として栄えたが、現在では林業不振により人工林の管理放棄、経済的・環境的価値の低下、加えて林業従事者の高齢化等から停滞を余儀なくされている典型的な過疎の村である。そこで2001年12月に(株)つみきハウス(宮崎県高千穂町)とライセンス契約を結び2002年4月から森林組合が間伐材を使ったつみきブロック製造工場「とよね木サイクルセンター」(以下センターと略)を経営、2003年4月からは豊根村が経営している。これは森林所有者から直接小径木を買取り、つみきブロック等に加工し販売を行う施設である。本事業は「つみきハウス」「ペレット」等の新しい間伐材・林地残材を利用した商品の生産及びそれらの消費体制を構築し、雇用の創出、林業経営の促進という循環を「木サイクル」と称し、健全で美しい森林を育成することを最終目的としている。
 調査対象と方法
本研究の第一段階としてセンターへの原料供給体制について調査した。2003年4月から12月末日まででセンターの提示した原木買取条件(表1)において取引を行った森林所有者、素材生産業者に対してヒアリング調査を実施。内容は_丸1_センターに木材を出した理由・感想_丸2_今後の出材予定とその条件_丸3_村外の原木市売場との取引関係の実態等、である。
結果
 その結果、対象者の意見は(1)未利用原木集荷機能(2)林家の出材条件にみるセンターの評価(3)選別出荷にみるセンターの評価、の3つに分析された。
 (1)現在林業経営を行わない林家は現状では立木を価値のある財産と見ておらず、間伐したとしても伐採木の価値実現策が無く持て余していること、一方で村営の木材引取りセンターの運営を評価し、些少といえども切り捨て間伐よりは現金収入になることは好ましいと判断する声が大半であった。
 (2)経営形態を問わず大部分の林家が、センターの買値が固定されており収入の計算がしやすいこと、ある程度の曲がり、少量でも引き取ってもらえることが供給者の利点であると答えた。大部分の林家は今後伐採した際には出材するつもりであると答え、センターの存在が間伐を促進させる要因とまではいかずも、原木の引取り先があることは今までとは状況が改善されたのではないかと感じている。
 (3)自伐型林家はセンターに出材することについて、取引先が村内であるため運搬費が抑えられることを主な理由とした。彼らは12cm以下の小径木とそれ以外に仕分けできる能力があり、前者はセンター、後者は近隣の市売市場へ、という市場細分化を行っていた。
 若干の考察と課題
林家の多くは木サイクル事業を好ましいと評価している。だが将来は民営もしくは第三セクターとなる予定であり、継続と利益の追求は必要不可欠である。そのためにはつみきブロック等の商品としての確立、需要の創出が課題である。一方では当初の目的である森林整備、山主への還元というスタンスを維持した地域と消費地を繋ぐ木材流通システムの構築が望まれる。

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© 2004 日本林学会
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