日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: K06
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渓流域環境の違いが日射量・水温・一次生産量・水生昆虫に与える影響
*伊藤 かおり井上 公基石垣 逸朗
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抄録

1. はじめに 渓畔林には,日射の遮断や落葉・落下昆虫の供給などの機能がある。2002年に実施した調査では,渓畔林の機能を広葉樹林と針葉樹林とで比較した結果,広葉樹林のほうが日射遮断と水温抑制機能が高く,水生昆虫個体数が多いことが明らかとなった。また林道開設や伐採によって,渓畔林の機能が損なわれることもある。そこで本研究では,針広混交林流域では樹冠下日射量,水温,一次生産量,水生昆虫の個体数および種数を測定し,林道や伐採跡地などの渓流環境の違いが渓流の生態に与える影響を評価した。2. 調査地概要 調査地は,最上川支流の山形県西川町八木沢川流域(YG)と綱取川流域(TS)である。八木沢川の流域面積は157haであり70%が針葉樹林である。八木沢川流域における渓畔域(渓流の両岸からそれぞれ15m以内)の植生割合は針葉樹林45%,広葉樹林15%,草地22%,裸地18%である。綱取川の流域面積は216haであり75%が広葉樹林である。TSにおける渓畔域の植生割合は広葉樹66%,針葉樹11%,草地0%,裸地23%である。YGは渓畔域に針葉樹林が多い流域であり,TSは渓畔域に広葉樹林が多い流域である。3.方法 樹冠下日射量の測定には,記録式日射量測定器を渓畔林内に最接近している立木の地上約1.6mの枝に取り付け1分ごとに測定した。YGとYGのそれぞれ3ヵ所に測定点を設けた。記録式水温測定器は,渓流域内の植生の変化する境界地点に設置し1時間ごとに測定し,YGに7ヵ所,YGに5ヵ所に測定点を設けた。測定期間は2003年8月6日~11月15日とした。一次生産物の採取方法は,河川内の石の5cm四方に付着している付着性藻類をブラシで擦り採取し,吸光光度計にて付着性藻類の乾燥重量を算出した。水生昆虫は50cm四方のコドラート内の河床を撹拌し採取した。一次生産物と水生昆虫の採取は 2003年8月,9月,10月,11月のそれぞれ3日間行なった。一次生産物と水生昆虫の採取地点はYGで6地点,YGで4地点である。3. 結果と考察樹冠下日射量はYGでは開葉期(8,9月)8.4w/m2/s,落葉期(10,11月)11.5w/m2/sであり,TSでは開葉期12.3 w/m2/s,落葉期36.0 w/m2/sであった。樹冠下日射量は,開葉期,落葉期ともYGのほうがTSよりも低く,YGの樹冠下日射量は8月から11月にかけて大きな変動を示していないが,TSは落葉期が開葉期の約3倍の値を示した。このことは,YGの渓畔域に広葉樹林が多いことから,10,11月になると落葉により樹冠下日射量が増加するものと考えられた。平均水温はYGでは開葉期15.6℃,落葉期10.7℃であり,TSでは開葉期14.5℃,落葉期9.7℃であった。平均水温は開葉期,落葉期ともTSが低い値を示した。一次生産量はYGでは開葉期11.5mg/m2,落葉期10.39mg/m2であり,TSでは開葉期16.36mg/m2,落葉期14.91mg/m2であった。水生昆虫個体数はYGでは開葉期31匹,落葉期45匹であり,TSでは開葉期34匹,落葉期40匹であった。開葉期の水生昆虫種数はYGで16種類,TSで14種類であり落葉期では両流域とも18種類であった。一次生産量は開葉期,落葉期ともTSのほうが多く水生昆虫個体数および種数は両流域とも同等の値を示している。これらのことから,針広混交林流域では渓畔域に針葉樹林が多い流域では樹冠下日射量の変動が小さく,渓流域に広葉樹林が多い流域では水温が低く保たれることがわかる。 渓畔域の植生と一次生産量,水生昆虫個体数および種数の関係をみるために,それらの採取区間を次の3つに分類しそれぞれの区間の一次生産量,水生昆虫個体数および種数を算出した。3つに分類した区間は,両岸に森林がある区間(以下A),片岸に森林がありもう片岸に草地・裸地がある区間(B),両岸に草地・裸地がある区間(C)である。一次生産量はA11.05mg/m2,B10.76mg/m2,C17.28mg/m2であった。水生昆虫個体数はA38匹,B32匹,C45匹であった。水生昆虫種数はA27種類,B28種類,C30種類であった。一次生産量,水生昆虫個体数および種数は,渓畔域に草地や裸地がある区間では最も多い。このことから,渓畔域に多少の草地・裸地が存在した方が一次生産量・水生昆虫が増加し,渓流魚の餌が豊富な渓流環境が形成されると考えられる。しかし,本研究の結果では裸地区間を流下後の平均水温が0.7℃,最高水温は1.1℃上昇した。草地・裸地区間では日射を遮断するものがないため,水面に到達する日射量は約10倍に増大すると推測される。したがって,裸地区間は水温の上昇を考慮しその渓流にあった区間長を設定する必要がある。

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© 2004 日本林学会
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