日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: K07
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森林伐採と環境倫理
*市原 恒一井上 昭夫豊川 勝生
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抄録

環境倫理学における世代間倫理の問題を用いて,将来世代のためにどのように森林を扱うべきかについて検討した。森林に生存権があるか? 加藤(1991)によると「人間のために絶滅に瀕している動植物の種の保護は,現代世代の義務であるという考えが世界の主流になっている」として,絶滅危惧種には生存権が存在すると暗示している。世界遺産に登録された森林など生態学的に見て貴重な森林には生存権が認められ,人工林や二次林には認められないと考えることができる。 世代間倫理によると,現代世代は化石資源を使わないでそのまま将来世代に引き継ぐため,循環的に利用できる資源しか使うことができない。また,将来世代について情報が無いのだから,現代世代の配慮が将来世代のためにならない場合が生じるとの批判がある。しかし,澄んだ水や空気を残すことは将来世代に間違いなく歓迎されるであろう。したがって,資源と環境の両面から将来世代に森林を残すことは世代間倫理に適合している。生態学的に貴重な森林ばかりでなく,人工林や二次林など様々な森林を将来世代に引き継ぐべきである。そこで,森林をどのような形で施業すれば世代間倫理に適合するかについて考察した。 生態学的に貴重な森林は、そのまま将来世代に残さなければならない。たとえば白神のブナ林や屋久スギを現代世代が伐採すると,それらの遺伝子が失われ,将来世代はそれらに触れることができないから世代間倫理に反すると考える。 循環資源林や共生林,水土保全林について以下のように考える。一般に,森林の伐期は40年以上であるから森林施業は世代間を縦断している。下山(1999)は、「過去世代が残してくれたこの貴重な森林を,良好な状態で将来世代に引き継ぐ義務があります。」と記述している。この考えでは,現代世代はむろんだが将来世代による伐採は縮小され,木質資源を充分に利用できないことになる。伐採が行われなければ,極相極相林となり,大気中二酸化炭素の吸収は望めない。将来世代に良好な環境と資源を残すことができないのだから,世代間倫理に反する。 森林により二酸化炭素を吸収して将来世代に温暖化ガスの含有量が少ない空気を残すために、適切な施業をするべきである。すなわち,幼齢林は大気中の二酸化炭素を大量に吸収して旺盛な成長をするが,成長するにしたがい徐々にその速度は低下し,老齢林ではほとんど成長しない。成長が衰えた時点で伐採してすぐに更新すれば,二酸化炭素の吸収量を増加させることができる。同時に,集運材や製材などでの消費量を減少させる。これにより,清い空気と木材資源を将来世代に残すことができ,世代間倫理に適合していると考える。 生態学的に貴重な森林は,将来世代に遺伝子を引継ぐため,そのまま残さなければならない。循環資源林や共生林,水土保全林では,成長が衰えた時点で伐採し,すぐに更新する。それにより将来世代に木質資源と温暖化ガスが少ない空気を残すことが期待できる。この施業法は従来の収穫量を最大にする林業とほぼ同じで,伝統的な方法である。鬼頭(1996)は,「人間と自然の間にある伝統的な「生活」と「生業」のという社会的・経済的,文化的・宗教的な自然とのかかわりにおける自然の知識の伝承ということが,将来世代への倫理と密接に結びついている」と主張している。従来の施業法である保続による持続的な森林経営が世代間倫理に適合していたのである。最近では,伐採後に更新しない林地があると聞くが,将来世代に対する犯罪的行為と言えよう。 水土保全林と共生林も保続林として施業を行うべきであるが,伐木集運材時の二酸化炭素の排出量を減少させ,林道などからの土砂流出を抑えて林地を保全するなど森林施業の環境負荷を減少させなければならない。

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© 2004 日本林学会
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