日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: K09
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GIS技術を用いた地籍界に対応した森林簿再編手法
*兼松 敬史後藤 純一
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抄録

【目的】
 森林を施業・管理していく上で,森林簿や地図を用いて作業計画を行なうことが多い.それぞれの情報は都道府県で管理されているが,しかし時間とともに変化していくため,正確な情報を統合して管理していくことが困難である.それゆえ現実と合致しない情報が多く存在する.国土調査が進められ国土情報も整備されつつあり,今後必要とされる森林空間情報システム(森林GIS)を用いた情報のデジタル化と,情報の円滑な流通が求められている.そこで本研究では国土調査による所有界に対応した森林簿を既存の情報から作成する手法を開発しようとした.
【材料と方法】
 試験対象地として,高知県吾川郡池川町内の岩柄・明戸岩・大西地区を選定した.
 森林簿を作成するにあたって,その項目に対応して標高・傾斜度・斜面方位・地利・植生・土壌・地質・立木の疎密度についてラスター型のデータを作成する。標高・傾斜度・斜面方位については国土数値情報50mメッシュ標高を用いてデータを作成する.地利については現地でのDGPS路網測量データを基にバッファリングを行い,路網からの距離を階級別に判別したデータを作成する.植生については環境省作成の現存植生図を用いて塗り分けた画像を作成する.地図が存在する土壌・地質の項目については,それぞれの地図をデジタル化した後に,幾何補正し,塗り分けた画像を作成する.疎密度はモノクロ航空写真を720dpiでデジタル化し,輪郭検出した画像をオルソ化し,輝度分布図を作成する.
 国土調査に基づく地籍データはベクター型データであるが,その属性値である所有界コードを10mメッシュでラスター変換し,ラスター型の項目データを重ね合わせて所有界ごとそれぞれの属性データを判定するプログラムを開発する.ラスターデータのオーバレイには斜面方位・植生・土壌・地質の項目はその所有界に対応した最大頻度値を抽出し,標高・傾斜度・路網からの距離階級区分図・疎密度の項目については平均値を抽出するようにプログラムを開発する.
 また今後のデータ流通を考え,それぞれの情報の保有状況を知るために高知県下における全市町村に向けてアンケート調査を実施した.
【結果及び考察】
 地籍データを10mメッシュでラスター変換するときに,面積が0.01ha以下のポリゴンが失われることが判明した.メッシュを細かくすることで解決できるが,現実的には0.01ha以下の林分情報は利用頻度が少ないと考え,本研究では情報なしとした.その他の地区においては正確な情報の抽出が可能となり,従来の手作業による森林簿再編を森林GISを利用し,作業の効率化を図ることが可能となった.
 このデータはGIS上でポリゴンの属性情報として表示する機能を利用し,背景地図と帳簿データを同時に扱うことができる点でも大変有効である.
 今後森林簿に追加していく項目として,森林施業図によるデータである林相・林齢等のデータを継続して入力していく環境が必要になってくる.これは施業図上に必要な情報を色鉛筆等で塗り分けた地図をデジタル化し,同様の手法を用いて属性データとして追加していくことにより,従来の施業図からの情報の転記も可能になることが考えられる.
 アンケートによるデータ保有状況調査では,本研究のベースとなる地籍データを作成する国土調査の進捗状況が森林面積80%以上の市町村平均で50.5%であり,データを森林組合に向けて開示可能かという問いには,ほとんどの市町村で可能及び検討中という回答が得られ,現在約80%の市町村が印刷物として保有する施業図からの移行が望まれる.GISの背景画像になる航空写真については,約70%の市町村がカラーかモノクロ写真を保有しているが,オルソ済みの市町村は20%未満と,オルソ化に対してはまだまだ消極的であることが明らかになった.しかし航空写真は本研究で用いたように地図画像より情報が多数存在し,今後の有効な利用方法が確立されることにより,オルソ化が進むことが考えられる.
 今後は,県が保有する森林簿を国土調査の進捗状況に基づき市町村が整備し,森林組合が現場で施業しながら路網・林相・林齢等のデータを付加・更新し,データを共有していくことが有効な手法であると考える.

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© 2004 日本林学会
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