日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: L16
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T6 森林の分子生態学
ブナにおける雄・雌機能としての遺伝子散布パターンと繁殖成功
*陶山 佳久丸山 薫清和 研二高橋 誠富田 瑞樹高橋 淳子上野 直人
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抄録

1.目的
 近年、多型性の高い分子マーカーを用いることによって植物の自然集団における親子関係の特定が技術的に可能になった。正確な親子特定に基づいた多数のデータを集積すれば、集団内における遺伝子流動様式だけでなく、各親個体の繁殖成功度を明らかにすることができる。そこで本研究ではマイクロサテライトマーカーを用いてブナ当年生実生の親個体を正確に特定するために、分析手法を工夫した新しいアプローチを行った。すなわち、まず実生に付着した母方由来の組織(果皮)の遺伝子型を調べることによって種子親を正確に特定し、次に子葉の遺伝子型を調べて花粉親を特定する2段階の親子解析を行った。この手法によって親個体の特定精度が向上するだけでなく、種子親と花粉親を区別して特定することができるため、種子・花粉の散布パターン、各親個体の雄・雌としての繁殖成功度をそれぞれ区別して検出することができる。本研究ではブナ天然林における繁殖・更新様式の実態を明らかにすることを目的とし、ブナ当年生実生の果皮と子葉のDNAを用いた2段階の親子解析を行い、ブナ成木の雄・雌機能の比較に注目して解析を行った。
2.方法
 宮城県栗駒山麓のブナ天然林に90m×90mの調査区を設定し、その中を5m×5mのサブプロットに分割した。さらに各サブプロット内に1m×1mの実生調査区を設定し(合計324個)、2001年春に実生調査区内に発生したすべてのブナ当年生実生に標識を付けて個体群動態調査の対象とした。さらに同じサブプロット内からその1割に相当する数の当年生実生を果皮ごと採取し、親子解析用試料とした。
 まず実生に付着した果皮を採取してDNAを抽出し、3つのマイクロサテライト遺伝子座について遺伝子型を調べ、調査区およびその周辺領域内(150m×150m)の全成木(255個体)の中から遺伝子型が一致するものを探索した。種子親が特定された実生についてはさらにそれらの子葉からDNAを抽出し、6つのマイクロサテライト遺伝子座について遺伝子型を調べ、父性解析によって花粉親を特定した。
3.結果
 2001年春に324個の各実生調査区内に発生した当年生実生数は0_から_237個体の範囲であり、合計13,917個体であった(43個体/_m2_)。サブプロットごとにその約1割にあたる合計1,406個体の当年生実生を採取し、親子解析用試料とした。まずそれらの果皮からDNAを抽出して遺伝子型を調べ、種子親候補木の遺伝子型と比較した。なお、対象とした3遺伝子座の分析によって種子親候補木はすべて異なる遺伝子型をもつ個体として識別が可能であった。これまでに解析を終えた範囲では合計1,013個体の実生について種子親が特定された。さらに、調査区中心部(50m×50m)の成木が種子親であると判定された実生288個体については、子葉からDNAを抽出して父性解析を行い、169個体の実生について花粉親を特定することができた。
 種子散布距離の平均値は11mで、その約9割が種子親から20m以内の近距離に散布されたものだった。それに対して花粉散布の平均値は33m以上であり、種子散布に比べて明らかに大きな値を示した。当年生実生群に対する種子親・花粉親としての貢献度は、いずれも個体サイズ(胸高直径)の大きな個体ほど大きく、その効果は種子親としての貢献度の方が顕著だった。個体ごとに雄・雌それぞれの貢献度を比較すると、大きな個体ほどより雌としての貢献度の割合が大きい傾向があることがわかった。すなわち、個体サイズと雌度(雄および雌としての貢献度に対する雌としての貢献度の割合)の間には有意な正の相関が認められた。

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© 2004 日本林学会
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