日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P2103
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ササ下層植生による歩行抵抗値の定量的測定
*吉川 正純
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キーワード: 下層植生, ササ, 歩行抵抗
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抄録

I はじめに近年,森林に対する要望から施業が変化し,作業プロットの小規模化と分散化が進んでいる。このような作業を行うために必要な労働量あるいは基盤整備量を計算するためには,より正確な林地到達時間を予測する必要がある。また林地到達時間から適正な作業範囲を予測することも可能である。また現在,林地到達時間は道路からの水平距離をもとに計算されており,さらに歩行者は最短経路を歩くと仮定されている。しかし同じ最短水平距離であっても,傾斜,下層植生の状況,土質等によって歩行は変化し,さらにはなんらかの迂回が含まれることも考えられる。このような背景の中で作業の種類,林地傾斜,歩行距離,負担重量,上り下りによる歩行者の生理的負担については多数の既往研究がなされてきた。しかし歩行に影響を与える林内要因として下層植生をとりあげたものはない。筆者は灌木のある林地において,作業者が膝より高い位置(地上高50cm以上)にある下層植生の状況によって,歩行抵抗を感じることを明らかにした。しかし最も重要なことは,下層植生量と歩行負担の関係を評価するために,下層植生の抵抗値を定量的に測定する方法を検討することである。そこで今回は抵抗値測定装置を用い,日本を代表する下層植生としてササに焦点を当て,その密度・高さによって歩行抵抗値がどのように変化するのかを調査した。II 方法1.測定装置 測定装置の概略図を図-1に示す。測定板は横20cm,縦100cmの枠をエンビパイプで作成し,そこにプラスチック板を円形になるように貼り付けた。測定板を2本の樹木間にはったワイヤーにつりさげ,糸で引っぱり,その間のササによる抵抗を測定した。測定板と地上との間は20cmになるようにした。抵抗値の測定は,東京測器社製の動荷重計(ロードセル)TCLB-200NAによって引張力を測定し,それをデータロガーDC-104Rによって,0.01秒間隔で測定した。実験は各プロットで3回ずつおこなった。また測定後,ルート上のササを刈払い,無抵抗の状態で3回測定をおこない,その抵抗値の平均をコントロールとした。2.調査地 実験は2003年11月7,12日および12月17日に京都大学フィールド科学教育研究センター上賀茂試験地の11,13,16林班でおこなった。測定プロットは6ヶ所設定し,幅1m×長さ10mとした。各プロットの情報として,1m2当たりのササの乾燥重量(以下,乾燥重量)を測定した。乾燥重量は,地上高別に50cm未満,50-90cm,90-130cm,130cm以上に分けて測定した。これは人間の膝,腰,胸の高さで分けようとしたためである。III 結果と考察1.抵抗値の算出 各プロットの3回それぞれの測定値の平均値と中央値を算出した。またコントロール値は3回すべての平均値と中央値を求めた。よって各プロットについて、測定値が6つ、コントロールが2つ存在する。これらの測定値とコントロールとの差や比を求め,乾燥重量との相関を調べた。2.考察 乾燥重量ともっとも相関が高かったのは、3回の測定値のうち最小値であった。図-2にその散布図を示す。この図から、抵抗値と乾燥重量はほぼ右上がりの直線関係にあることがわかる。また乾燥重量の中でも、相関がもっとも高かったのは50cm以上の乾燥重量であり,R^2=0.959であった。 この結果は、実際に人間が歩行した場合に、その歩行負担が地上高50cm以上の植生乾燥重量と相関の高かったことと一致する。よって,今回の測定装置による測定結果が妥当なものであることがわかり、歩行負担の定量的測定において有力な方法であることが示唆された。地上高50cm以上とは、膝よりも高い植生量であり、またいで歩くことのできない植生があることで、歩行負担が増加すると考えられる。今後は、1)ササ以外の下層植生について同様の測定をおこない、下層植生の種類について考察すること、2)コントロールを横軸を時間(s)、縦軸を荷重(N)でグラフにすると、やや右上がりの傾向が見られることの原因を追究していく。また、下層植生の状況を考慮に入れた林地到達時間が予測できるようになれば、作業道等の計画立案に労働者側から提言できるのではないかと考えている。

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© 2004 日本林学会
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