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第115回 日本林学会大会
セッションID: P2104
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落葉広葉樹林におけるGPS測位精度の季節変化
*長谷川 尚史浦上 勝米津 克彦
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抄録

1.はじめに
森林におけるGPS測位精度については様々な研究が行われてきたが,落葉樹林における測位精度の季節変化についての検証は,十分には行われていない。吉村ら(2003)は林内静止時におけるGPS測位精度の季節変化を調べ,樹冠下における測位精度の低下には,上空に覆う葉の影響よりも,樹幹や枝による短時間の信号遮断の影響が大きいと推測している。そこで本研究では,落葉広葉樹林内の定点において,開葉から落葉まで,毎週3時間のGPS測位を行うことによって,測位精度の季節変化を観察し,測位精度に影響を与える要因について検討を行った。
2.方法
試験は京都大学フィールド科学教育研究センター上賀茂試験地落葉広葉樹人工林分のGPS観測定点において,2003年5月2日から同年12月25日までの期間,週に一回の頻度で午前10時から午後1時まで測位を行った。観測地点を中心にした半径10mの円形プロットにおいて毎木調査を行ったところ,主要樹種はチャンチンモドキ,立木密度350本/ha,平均胸高直径37.4cm,平均樹高18.5m,胸高断面積合計51.5m2/haであり,一部に人工植栽された外来マツが含まれていた。使用した受信システムはハンディGPS受信機(Garmin社製GPS3+)および外部アンテナ(Motorola社製)で,asyncおよびgar2rnxを使用してパソコンにRINEXファイルを直接記録した。得られたデータを30分ごとのデータに分割し,京都大学GPS基準局データを基地局にして基線解析ソフト(LeicaGeosystem社製 SkiPro1.1)を用いて干渉測位およびコードディファレンシャル測位(以下,DGPS)を行い,測位誤差(平面方向)を求めた。定点座標の真値は二周波受信機および周辺の三角点を用いた三次元網平均により算出した。またRINEXファイルから,平均PDOPおよび平均信号強度,平均衛星捕捉数を求めた。マスク設定は基線解析時に仰角マスク(15度)のみ設定した。葉量の指標として,測位時にデジタルカメラ(Nikon社製CoolPix995およびFC-8)で全天写真を撮影し,LIA32ver.0.376β1を用いて仰角15度以上の部分について開空度を算出した。また同時にチャンチンモドキのフェノロジーを記録した。
3.結果と考察
(1)開空度の季節変化
開空度の季節変化およびフェノロジーを図-1a に示す。観測開始時に46.6%であったものが,夏期には21.1%となり,観測終了時には51.5%となった。結実は8月30日で,観測終了時にも落果しないものが多数見られたが,開空度への影響はほとんどなかった。
(2)測位精度の季節変化
干渉測位およびDGPSにおける測位誤差の推移を図-1b に示す。干渉測位はDGPSに比べ精度のばらつきが大きかった。干渉測位誤差と開空度とは弱い相関が認められた(R2=0.018, p=0.064)が,DGPS測位誤差と開空度とでは相関は見られなかった(p=0.363)。
(3)測位誤差に影響を与える要因
測位誤差に影響を与えている因子について検討するため,測位誤差を従属変数とした重回帰分析を行った(表-1)。その結果,DGPS,干渉測位のいずれの場合も捕捉衛星数および信号強度が測位精度に影響を与えていることが分かった。本試験では,開空度の上昇はむしろ測位精度を悪化させる傾向にあり,測位精度にはほとんど影響していなかった。
(4)開空度に影響される要因
開空度が変化することにより影響される要因について検討するため,相関分析を行った。もっとも相関の高かった信号強度と開空度の関係を図-2に示す。開空度が35%以下になると信号が劣化する傾向が見られた。
4.おわりに
上記の結果から,開空度の減少により信号強度が低下するが,干渉測位およびDGPSにおける測位精度を大きく劣化させるまでには至らず,むしろ捕捉衛星数の変化による影響の方が大きいことが明らかになった。ただし,感度が劣る受信システムを用いた場合や,移動中,あるいはより葉量の多い林分においては,信号劣化が測位精度に影響を与える可能性がある。今後,他の林分や受信システムでも試験を行う予定である。

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© 2004 日本林学会
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