日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P4005
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樹病
マツ材線虫病被害で絶滅の危機に瀕する種子島のヤクタネゴヨウ
*金谷 整一中村 克典秋庭 満輝玉泉 幸一郎齋藤 明
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抄録

1.はじめにヤクタネゴヨウ(屋久・種子・五葉:Pinus armandii var. amamiana)は、台湾のタカネゴヨウ(var. masteriana)ならびに中国のカザンマツ(var. armandii)の近縁種とされ、種子島と屋久島にのみ自生する五葉松である。ヤクタネゴヨウは、種子島で100個体、屋久島で1,500-2,000個体が生残していると推定されている。また、個体数が減少傾向にあるとみられることから、レッドデータブックでは絶滅危惧IB類にランクされている。特に個体数が少なく、島内に散在している種子島においては、屋久島より絶滅の危険性は高いとみられる。種子島におけるヤクタネゴヨウの個体数減少の要因として、数十年前までは丸木舟の用材や建築材による伐採が主な要因であった(金谷ら,2001)。近年では、日本のマツ林に影響を及ぼしているマツ材線虫病による被害が考えられている。ヤクタネゴヨウとマツ材線虫病に関する知見として、苗畑などにおける実験で、マツノザイセンチュウを接種すると枯死することが確認されている(Akiba and Nakamura, unpublished)。また、種子島の自生地において枯死したヤクタネゴヨウ1個体の樹幹材辺より、マツノザイセンチュウが検出されている(Nakamura et. al, 2001)。これまでに、種子島におけるヤクタネゴヨウの個体数減少およびマツ材線虫病の影響等に関する定量的な情報はない。そこで本報告では、種子島におけるヤクタネゴヨウのモニタリング調査を行うことにより衰退過程ならびにその枯死要因について明らかにすることを目的とした。2.調査地と調査方法種子島は、九州本土最南端より南方40kmの海上に位置し、南北58km、東西13km、最高標高282mと屋久島のような急峻な山岳が存在しない丘陵性の島である。本島の基盤となる地質は、砂岩と頁岩からなる新生代古第三紀の熊毛層群である。調査は、種子島の一市二町(西之表市、中種子町、南種子町)で行った。当該調査地域内に自然分布および植栽されている98個体のヤクタネゴヨウ成木(胸高直径5cm以上)を調査対象とした。モニタリング調査は、1994年よりを開始し、おおむね毎年1_から_3回の割合で行った。 毎調査時に生死の確認を行った。枯死していた際には、その形態を、「立枯れ」、「根返り」、「伐採」の3つに分類して記録するとともに、樹幹よりドリルを用いて材辺を採取した。採取した材辺は、森林総研九州支所(熊本市)に持ち帰り、据え置き等の処理をした後、ベールマン法により材線虫類の検出を試みた。3.結果と考察調査期間中に23個体の枯死が確認された(2004年1月20日現在)。生残率は、1994年の調査開始時を100%とすると、10年間で76.5%まで減少したことになる。枯死形態をみると、「立枯れ」が19個体(83%)、「伐採」が4個体(17%)であり、「根返り」は確認されなかった。「伐採」で枯死(消失)した3個体は、採石場内に分布しており、事業の推移により伐採されたものと考えられる。残りの1個体は、神社境内に植栽されており、材辺採取する前に伐採されてしまい、枯死要因を確認できなかった。屋久島では、強力な台風の襲来という気象的要因と、地形が急峻かつ表土層の薄い環境的要因により「根返り」や「土壌流出」による枯死個体が確認されている(Kanetani et. al, 2001)。しかしながら、種子島で行った今回の調査で「根返り」がみられなかったことは、地質や地形といった要因が関係していると推察される。「立枯れ」した枯死個体のうち14個体について材辺を採取し、11個体よりマツノザイセンチュウが検出された。特に2002年以降、枯死要因の80%以上が、マツ材線虫病であった。以上のことから、最近10年間の種子島におけるヤクタネゴヨウの個体数減少の大きな要因は、マツ材線虫病被害と採石事業に伴う伐採であった。例年、種子島においては、マツ材線虫病による被害が確認され、島内に分布するクロマツに深刻な被害が発生している。また、ヤクタネゴヨウが分布する地域周辺でも、マツ材線虫病で枯死したクロマツが確認されている。このままの状況が続くと、種子島におけるヤクタネゴヨウに対し、マツ材線虫病被害の拡大が懸念され、個体数減少(維持)に大きな影響を及ぼすことが予想される。

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© 2004 日本林学会
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