日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P5049
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生理
渡島駒ヶ岳に更新したカラマツ稚樹の成長特性
*香山 雅純曲 来葉北橋 善範江口 則和赤坂 宗光小池 孝良
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抄録

北海道南部に位置する渡島駒ヶ岳は有数の活火山であり、1929年の大規模噴火により堆積した火山灰の影響を受けて、広範囲の植生が消失した。その後、残った自然植生からミネヤナギやイヌコリヤナギなどの矮生の低木が更新し優占した。さらに、1950年後半から駒ヶ岳山麓南西部には多くのカラマツが植栽され、山麓のカラマツ人工林から種子が散布されて侵入・定着し、現在では駒ヶ岳に分布する主要な樹種となった。しかし、駒ヶ岳山麓に生育するカラマツ稚樹の成長や光合成速度は、同じ標高の個体間でもばらつくことから、駒ヶ岳のカラマツ稚樹は、わずかな立地要因の違いによって成長が大きく異なることが予想される。本研究では、カラマツの実生が定着する過程で稚樹の成長に関わる要因を解明することを目的とした。そして、土壌成分、光合成能力、それに関わる養分吸収能力、養分吸収と密接に関わる外生菌根菌の感染状況を測定した。
  本研究は、駒ヶ岳の南斜面に分布する4-5年生カラマツ稚樹を対象にした。調査は、駒ヶ岳南東の隅田盛と、南西の剣ヶ峰山麓の800mと570mの地点に50m×50mの方形区をそれぞれ設定して実施した。予備調査として、まず稚樹の成長を測定するために、方形区内の1m以下のカラマツ稚樹に関して樹高と2年間のシュート伸長量を測定した。その後、シュート伸長量の平均を樹高で割った成長率を定義し、算出した。稚樹の成長率は0.15から0.45の範囲だったが、多くのカラマツ稚樹の成長率は0.25から0.30であった。その中で、成長率が0.30以上の成長の良い稚樹をgood、0.25以下の成長の悪い稚樹をbadと定義し、それぞれの個体を測定と分析に供した。土壌は、2003年10月にgoodとbadのカラマツ稚樹の生育する下部の0-5cmと10-20cmの深さから採取した。採取後、土壌pHを測定した後、105℃で24時間乾燥させた。そして、土壌中の各種元素を分析した。光合成測定は、現地の個体を開放型の同化箱法を用いて、光_-_光合成反応と、CO2依存の光合成反応を2003年7月に測定した。光合成の測定時の気温と湿度は平均26℃と60%であり、CO2依存の光合成反応測定時の光強度は1,500 µmol m-2s-1で行った。測定終了後、スキャナーを用いて葉面積を測定し、面積当たりの光合成速度を算出した。また、800mと570mの方形区からgoodとbadのカラマツ稚樹のサンプリングを行い、植物体中のクロロフィル・各種元素濃度の分析と、外生菌根菌の感染率を算出した。
異なる生育状態のカラマツ稚樹の成長反応を測定した結果、成長の良い稚樹は光飽和時における光合成速度が成長の悪い稚樹よりも高かった。また、成長の良い稚樹は、針葉中のクロロフィル濃度、窒素濃度、リン濃度が高かった。さらに、成長の良い稚樹は外生菌根菌の感染率も成長の悪い稚樹より大きい値を示した。葉内窒素濃度は最大光合成速度と正の相関を示すことから、成長の良い稚樹は高い窒素濃度によって光合成速度が高くなったと推察される。そして、成長の良い稚樹の周辺土壌中の窒素濃度は高かったことから、土壌中の窒素を多く吸収したことによって、葉内窒素濃度も高かったと考えられる。一方、土壌中のリン濃度は稚樹の生育状態によって違いはなかった。リン濃度は、外生菌根菌との共生関係によって吸収が助長されることから、成長の良い稚樹は外生菌根菌の働きによって多くのリンを吸収できたと推察される。また、無機リン(Pi)は光合成のカルビン回路内で使用されており、飽和CO2における光合成速度は、Piの再利用速度によっても律速される。このことから、成長の悪い稚樹は葉内リン濃度が低いことから、Piの再利用速度が抑制されていたと推察される。

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© 2004 日本林学会
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