抄録
ブナ科樹木萎凋病は病原菌を運搬するカシノナガキクイムシの集中加害(マスアタック)によって引き起こされる。被害林分では、カシノナガキクイムシの穿孔は受けたもののマスアタックに至らず生残している木も見られる。カシノナガキクイムシによる寄主木の選択過程を、穿孔対象の選択過程とマスアタック対象の選択過程の二段階に分けて考え、後者の過程に及ぼす影響を探索した。2008年よりナラ枯れ被害が発生したミズナラとクリが優占する京都府東部の二次林(93ha)において、カシノナガキクイムシの穿孔木の分布を3年間継続調査した。全ての穿孔木についてその樹種と生死を記録し、胸高直径を測定し、GPSで取得した位置データから地形データを算出し、周辺2.5~25mの穿孔木密度を計算した。穿孔木の生死を予測するため、空間自己相関を考慮した一般化線形混合モデルを構築したところ、説明変数として樹種・胸高直径・周辺15mの穿孔木の胸高断面積合計・標高を含んだモデルが最も予測力が高かった。調査地内では、低標高に位置し周辺に穿孔木が多い太いミズナラでマスアタックが起こり枯死しやすくなっていることが示唆された。