抄録
本州・四国・九州の冷温帯広葉樹林に分布するコルリクワガタ種群には、大局的にみて側所的な4種が存在する。しかしながら、分布域が山岳地帯であるため、分布境界の詳細な状況を把握することは困難である。この種群に属するトウカイコルリクワガタとニシコルリクワガタは福井・滋賀県境の山岳地帯に分布境界をもつ。境界付近を詳細に調査したところ、飛翔できる昆虫であるにもかかわらず、2種の分布は連続した広葉樹林内の300mほどの距離で完全に入れ替わり、その間の限られたエリアでのみ2種が混棲していた。形態から種間雑種と推定できる個体は発見できなかった。また、境界付近では2種の体長差が大きくなり、トウカイコルリクワガタがより大型に、ニシコルリクワガタがより小型になっていた。2種のミトコンドリア遺伝子を解析したところ、種間には塩基配列に大きな相違があり、境界付近でも浸透性交雑は認められなかった。2種を交配させたところ、種間交尾は頻繁に生じ、種間雑種の幼虫が得られた。これらの結果から、2種の極めて強い排他的分布には、生殖干渉が関与しており、分布境界付近の体長分化は生殖的形質置換である可能性が示唆された。