抄録
ファジィ関係を用いた診断型エキスパートシステムは, 観測される異常な症状はある原因に起因し, その結果生じるものであるという考えに基づき, 症状からその原因を特定しようとするシステムである.一般に, 症状から原因を求める方法としては, 原因と症状の間の因果関係を用いてファジィ関係方程式の逆問題を解く方法が利用されている.ところで, この方法では逆問題を解くという観点から, 各原因に対して「関係するすべての症状が観測される」ことが前提条件となり, 観測されない症状が一つでも存在すると, その症状と関係する原因はほとんど可能性がないと推論されることになる.しかしながら, 現実にはすべての場合においてすべての症状が観測されるとは限らない.そこで, 本稿では, ファジィ関係を用いた診断型システムにおける前述のような問題を解決するため, 原因の確信度を悲観的, 及び, 楽観的という二つの異なる立場から求めた指標, つまり, 関係する症状がすべて観測されているとした場合の原因の可能性と, 一部しか観測されていないとした場合の原因の可能性を用いて表すことを試み, その結果, いかなる症状の入力に対してもその状態に応じた各原因の可能性を求めることが可能となることを示す.