抄録
顔面皮膚温は, 赤外線カメラを用いて非接触で計測可能で, しかも, 感覚の発生による自律神経活動に伴い変化するため, 人の感覚を推定する上で有効な生理量である。本報告では, 時系列データの軌道不安定性を評価するリアプノフスペクトラム解析と時系列データの自己相似性を評価する相関次元解析を, 鼻部皮膚温に対して実施し, 本解析手法が感覚を推定する上での評価尺度として有効であるかどうかについて検討した。この目的のために, 環境温度25℃, 湿度50%, 活動量1.0met, 着衣量0.7,1.0clo.という条件下においてリラックス時(安静閉眼)とストレス時(TVゲーム)という状態において計測した鼻部皮膚温に対し, リアプノフ相関次元解析とスペクトラム解析を実施した。結果として, すべての被害者において最大リアプノフ指数とKSエントロピーは, リラックス時に, 統計的有意に増加し(P<0.01), また, これらの値と, 被害者実験時に連続尺度にて計測した緊張感, 興奮度という感覚主観申告値との間には統計的に有意な相関(P<0.05)があった。一方, 相関次元は収束しなかった。このことより, 鼻部皮膚温のリアプノフスペクトラム解析は人の感覚を評価する上で有効な手法であることが示唆された。