2009 年 4 巻 1 号 p. 1-6
水に食塩を加えて陽極より生成される強酸性電解水は、1990年代初めに登場し、当時深刻な院内感染問題を引き起こしていたMRSAをはじめ各種の病原菌や食中毒菌に優れた殺菌作用を示すことから、医療や食品の分野での利用が期待された。電解水の殺菌要因は当初、酸化還元電位(ORP)の高いことにあると喧伝されていたが、やがて次亜塩素酸であることが明らかにされた。化学的にみて同族である次亜塩素酸ナトリウムは、消毒薬として医療分野での使用が認可されており、また、食品添加物としても指定されている。しかしながら、強酸性電解水の殺菌要因は酸化還元電位と信じられていたために次亜塩素酸に基づく使用の動きは行われなかった。一方、食品分野では、次亜塩素酸は1993年まで食品添加物(殺菌料)リストに収載されていたが、90年代初めに食品添加物の見直しが行われた際に使用実態が無いとの理由でリストから除かれたが、その際も電解水装置メーカーは見過ごしていた。この様なことから、新たな技術によって生成された強酸性電解水を医療目的に使用するにはその生成機器を医療用具として、また食材の殺菌に用いるには食品添加物としての認可を受ける必要があるとの見解が厚生省(当時)から示された。認可申請のためには、物性、有効性と安全性に関する科学的データを揃えることが必要で、新たに安全性試験を行うことが必須であった。 筆者は、術前の手洗いを用途とした強酸性電解水生成装置の医療機器認可申請に際しての有効性試験および安全試験を実施し、最近もラットを用いて腹腔洗浄の安全性に関する試験を実施・経験した。本稿では、認可に至るまでに求められる事柄、特に安全性の確認に求められる法的な決まりとともに強酸性電解水に関して実際に確認された安全性に関して概説する。