抄録
この論考の目的は、汐留遺跡で発掘された2棟の建物跡の性格を明らかにすることである。汐留遺跡は、江戸時代の大名屋敷で、1998年から2006年にかけて発掘調査が行われた。2棟の建物跡は、この遺跡の庭園内で確認された。この論考で私は、2棟の建物跡の性格について、「貴重品を収蔵した建物」であることを主張したい。
同じようにあえて庭園の中に建てた江戸時代の建物としては、江戸城紅葉山文庫や栃木県の足利学校跡等でみられ、貴重な書籍を収蔵した御文庫とされている。また、近年の発掘調査の事例としては、山口県の大内氏館跡でも見られ、戦国時代から存在したことがわかる。さらに大正時代の事例として旧古河庭園があり、時代や地域を越えて多くの事例があることが想定される。これらの建物をあえて庭園内に建てた理由としては、貴重品を火災等の延焼から守るため、他の建物と離れた庭園内に建てたものと考えられる。発掘調査によって確認された遺構の解釈は、文献史料や絵図の解釈、造園的な知識などさまざまな方面から検討することが必要である。