心身健康科学
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原著論文
直接授乳プロセスにおける母親の唾液中クロモグラニンAとポジティブな心身状態得点の測定
小曽根 秀実久住 武近藤 昊
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2012 年 8 巻 2 号 p. 100-112

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抄録

直接授乳プロセスにおける母親が自覚するポジティブな心身状態の変化を心身健康科学の視点より検討するため,唾液中クロモグラニンA (以下,唾液中CgA) と母親が自覚するポジティブな心身状態尺度 (10件法) を用いて調査した.調査は,2009年8月~ 2010年10月の期間,13時~16時の家庭訪問中に行なった.対象者は産後2ヶ月~6ヶ月以内の母乳育児中の20から30歳代の母親25人である.はじめに母親から唾液を(1)授乳前30から45分(2)授乳直前(3)授乳開始5分後 (授乳最中) (4)授乳後30から45分 (授乳後) の合計4回採取し,CgA (pmol/ml) を測定した.同時に母親の自覚するポジティブな心身状態として「満たされている」「 (自分自身や授乳対象である児に対する) 信頼している」「手足が温かく眠い」を測定した.その他,質問紙調査票を用いて母親の属性を調べた.
25人中14人と13人の母親からそれぞれ有効な唾液中CgAと10点評価尺度の結果を得た.その結果,14人の母乳育児をしている母親の唾液中CgAの平均値は「授乳直前」より「授乳最中」に僅か増加することがわかった.しかし,母親の唾液中CgAの個人差が大きいので個々人を見ると,「授乳直前」より「授乳最中」に高くなる母親 (増加群:8人) と低くなる母親 (減少群:6人) の2群のパターンを発見した.また,母親の唾液中CgAの変化に影響を与える背景として「妊娠中期の不安の有無」や「授乳回数が20回以上あるかどうか」が予測されたが,両群の唾液中CgAとこれらの背景との間に有意な関連性は認められなかった.母親のポジティブな心身状態の3項目の得点は,1人を除いて「授乳直前」より「授乳最中」が高く,平均得点は「満たされている」 (p < 0.01),「信頼している」 (p <0.05),「手足が温かく眠い」 (p < 0.01) が高かった.しかし,唾液中CgAの上昇群と下降群の間で母親が自覚するポジティブな心身状態の尺度の平均得点を比較したところ,有意な差は認められなかった.以上のことから,精神的ストレス指標である唾液中CgAが高い母親でも,直接授乳プロセスにおいて,多くの母親はポジティブな心身状態を自覚していたことがわかった.

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© 2012 日本心身健康科学会
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