抄録
目的 家庭科教育において、実践的能力の育成は教科の独自性をあらわすものであり、今日の小学校家庭科においても極めて重要視されている。その一方で、児童が学習内容を日常生活で十分に活かしきれていないことが今日の課題としてとらえられ、その要因は、学習者の実践化へのプロセスに関係があると考えられる。実践する態度を育むために、家庭生活に関わる授業においては、五感を通して実感をもたせることがより重要であると言われている。したがって、児童の実践率を高める学習方法として、「実感をもつこと」を提起する必要がある。「実感をもつこと」とは、素直に感じた心情的なものを受容すると同時にそれらの意味を自覚することである。この新しい教育内容の有効性を明らかにするためには、授業を通してなされた検証が必要であろう。本研究では、小学校家庭科において、実感を重視した授業実践を通して、実践化への構造を明らかにすることを目的とする。
方法 題材は、「整理・整とん、清掃活動直後に実感をもつこと」である。本題材における、「実感をもつこと」とは、「活動直後にじっくりと周りを見渡し、じっくりと味わうこと」とする。また、授業設計時における、理論的背景は、1)「実感をもつこと」を通して課題をつかむ、2)活動直後に「実感をもつこと」を体験学習する、3)「実感をもつこと」を生活に導入するための計画を立てる、4)計画を実践・検討する、5)ホームプロジェクトとして生活化を図る、というプロセスを経て、実践に至ると考えた。 調査対象は、千葉大学教育学部附属小学校5年4組の児童40名と、同クラスの家庭科教員である。調査方法は、質問紙法による事前・事後実態調査、刺激再生法を用いたインタビュー調査である。授業分析材料は、調査結果、VTRによる授業記録、抽出児童追跡法による観察者の授業記録、ワークシートの記述、1時間目終了直後の感想である。
結果 課題をつかむ活動について、「実感をもつこと」を取り入れた結果、児童は学習に対する意識・行動力が高まったと考えられる。体験活動において、整理・整とん、清掃活動直後の心情を表現する活動では、歩く、跳ねるといった、体全体を積極的に動かす表現よりも、うつ伏せになるといった消極的な表現が多く観察された。したがって、児童は喜びやうれしさよりも、心地よさや安堵感を持ったと推測される。また、ホームプロジェクトについては、これを実行することで、ポジティブな感情をもつ児童、ネガティブな感情をもつ児童、義務的に捉える児童がいたことが明らかになった。事例研究として、ホームプロジェクトの実践率が高く、基礎・基本となる知識を深く理解していた児童Aの追跡調査を行った。その結果、児童Aの実践化へのプロセスは、)無意識に実感をもつことで活動意欲が高まる、)清掃活動後にポジティブな感情を伴った達成感を得る、)生活化を図るための計画をたてる、)計画を実行せず、家庭で実践する、)「実感をもつこと」を理論的に理解する、)自己の反省を基に、ホームプロジェクトの計画を立てる、)計画を実行し、自己の実践方法を習得する、であった。児童Aの授業前後の比較では、短時間で可能な計画表に沿って実践した結果、1日の時間の長さよりも継続性への重視が高まったと捉えた。さらに、整理・整とん、清掃活動直後に「実感をもつこと」を導入する意識をもつようになったと推測される。また、児童Aの「実感をもつこと」とは、「きれいになったかどうかを確認し、その後、うれしさを表現する」であると捉えた。