抄録
[研究目的と方法]
日本がアメリカの占領下にあった1949(昭和24)年8月29日,「昭和二十四年度学習指導要領家庭科編高等学校用」が発行された。この指導要領は,戦後の高等学校家庭科教育の内実を初めて形成したものであり,それまでの「昭和二十二年度版」および「昭和二十三年度版」要領とは異なる意義をもっていた。従来の研究から,この指導要領の作成に大きな影響を与えたのは、GHQの民間情報教育局(CIE)の家政教育顧問として1948年6月から9月まで日本に滞在したD・S・ルイス(Dora S・Lewis)であったことが知られている。しかし,その詳細は,これまでの研究では明らかにされていない。 そこで,本研究においては,?GHQ/SCAP,CIE RECORDS.?文部省が1948(昭和23)年度に都府県の教育委員会に配布したと見られる『高等学校に於ける新教科課程の解説』(熊本縣教育委員会事務局指導室編,八代高等学校所蔵),?ルイスが教科課程改正委員会に参考資料として提示したニューヨーク州の中等学校用カリキュラム「Planning Guide HOMEMAKING EDUCATION」等の文献を使用して,「昭和二十四年度学習指導要領家庭科編高等学校用」の成立事情把握することを目的とした。
[研究結果]
1.高等学校の家庭科学習指導要領の改訂を最大の任務として来日したルイスは,既に発足していた教科課程改正委員会の家庭小委員会(名称未確認)に,学習指導要領作成のための重要参考資料 として,ニューヨーク州中等学校用家庭科カリキュム(暫定版)“PLAN FOR HOMEMAKING UNITS TO BE TAUGHT AT DIFFERENT LEVELS”を提示し,参考にするようにと指示した。これが昭和24年版指導要領の骨子となった。なお、この暫定版カリキュラムは1950年に完成し、“Planning Guide HOMEMAKING EDUCATION”として出版された。
2.CIE文書によれば,ニューヨーク州の暫定カリキュラムの特徴は,第1に家庭管理,消費者教育,家族関係の領域をどの単元にも織り込んでいること,第2に一人の教師が全領域を担当すること,第3に『Homemaking 1』と『Homemaking 2』のどの単元も男子が学習してよい,という特徴をもつものであった。
3.ルイスが日本側に提示した暫定版カリキュラムは,今日では人手不可能なため,後に出版された“Planning Guide HOMEMAKING EDUCATION”と「昭和二十四年度学習指導要領家庭科編高等学校用」を比較したところ,両者の構造や内容に多くの類似点が見出された。構造面では,前者の単元は「基本的学習」と「家庭,学校,地域における望ましい経験と活動」から構成されており,また後者の単元は「目標」,「指導内容」,「学習活動」から構成されているが,前者の目標と指導内容を合わせたものが後者の基本的学習に相当するとみなすことができた。内容面での類似箇所は多い。
4.「昭和二十四年度学習指導要領家庭科編高等学校用」の教科課程においては,『一般家庭』は,被服コース(被服,経理,家族)と食物コース(食物,保健・育児,住居)に分けて各7単位を与え,いずれかのコースを履修した後に選択科目を選ぶことができるとした。ルイスの原案では,1年生で食物(1または2学期)被服(1または2学期),保健・育児(3学期)を,そして2年生で経理(1または2学期),家族(1または2学期),住居(3学期)を学習し、3年生ではそのうえで選択科目である食物?・?(1または2学期),被服?・?(1または2学期),家族・保育?・家庭経理(3学期)を履修するとしていた。2年間に1学期だけの被服指導並びにある季節だけの食物指導には疑問が呈されて,ルイスの帰国後,原案は、日本側によって修正され,上記のような領域の組み合せになった。