抄録
【目的】 近年、自殺者は年間3万人前後と多く、交通事故による死亡者の2~3倍とも言われている。中でも青少年の自殺は少数であるものの、夢を持ち、これから未来に羽ばたいていこうとする若い世代のいのちが自ら絶たれることは、家族や社会にとっても非常に重要な問題であると考えられる。家庭や社会の教育機能が低下している現在、多くの教育的課題を学校が背負わざるを得ない結果となっている現状である。しかしながら、子どもたちが一日の大半を過ごす学校において、これらの問題を考えたり、解決方法を模索する系統的・組織的自殺予防教育はほとんど行われていない。そこで、我が国における自殺予防教育を試みる際の手がかりとして、すでに学校での自殺予防教育に取り組んできたいくつかの北米等の現状を把握し、それをもとに我が国の自殺予防教育の礎を築くことを本研究の目的とした。
【方法】 まず、デー夕べース等を用いて文献検索を行った。次に、いくつかの北米と台湾の大学教育カリキュラムおよび中学・高校のテキスト等をもとに自殺予防教育のカリキュラムの実情をまとめた。さらに、これらの知見をもとに学役教育で展開する自殺予防教育としての CD-ROM 教材をマイクロソフト社のパワーポイントを用いて作成した。
【結果】 大学図書館の所蔵目録(OPAC)およびデー夕べース(NACSIS-IR他)による検索結果、キーワード“自殺”では総数8790件、“自殺予防になると総数644件となり、さらに “自殺予防教育”ではわずか19件のみであった。次に、独自に入手したカナダ・アメリカ・台湾の大学シラバス、中学校・高校の教科書等からそのカリキュラム等の実態を把握した。北米・台湾の自殺予防教育の資料調査結果を参考に日本で自殺予防教育を展開するために考えられる手段を考察した。その結果、教育対象としては教員と子どもを対象とする2つのプログラムが考えられた。また、教育内容面ではプリベンション・インターベンション・ポストベンションの3つから自殺予防に介入するプログラムが考えられた。さらに、それらの資料をもとにCD-ROM教材を開発し、小学校6年生を対象に授業実践を行った。授業実践では、自殺というショッキングな話題であるため、事前に担当教諭と十分な打ち合わせや授業後のアフターケアの重要性が指摘された。
【考察】 我が国の自殺予防教育プログラムを考える際、その内容は諸外国のものを直輸入するのではなく、日本人の感性や文化にそった内容や展開方法を考慮する必要がある。考慮すべき点として以下に挙げるいくつかの点が考えられる。?依然として残る強い死へのタブー視に対する考慮、?学校での宗教的教育の介入・展開の無さへの再検討、?日本人の根底にある生死観や輪廻観、また生活文化としての慣習儀礼、特に葬送儀礼等を念頭に置くこと等が必要であると考えられる。 現在の日本の教育カリキュラムの時間削減の中では、自殺をテーマにしたプログラムの展開することはおろか、いのち教育の授業を展開することさえも困難な状況である。さらに地域社会・家族の教育力の低下に加え、教員の研修の少なさなどあり、今後は子どもたちが学んでゆく環境をどのように設定するかが課題になる。