抄録
1.目的 本研究の目的は、大学生の自立に関して、自己評価意識の構造特徴を分析し、それに影響する要因を検討することである。先行研究(高田・神川,富山大学教育学部研究論集No,5:51‐56,2002)において、大学生の自立は、「精神的・行動的独立性」「他者との相互理解」「身辺自立」「親・友人からの信頼」という4つの因子横造からなることが明らかになった。さらに、これらをもとに類型化を試みたところ、「総合型」「他者依存型」「自己確立型」「身辺自立型」の 4つのクラスターに分類することができ、各クラスターの基本的属性や現在の生活状況等からの分析をおこなった。先行研究に引き続き、大学生の自立に関する自己評価に影響する要因を検討するため、本研究においては、自己の金銭観や親の金銭観等の価値意識との関連を分析する。これにより、大学生の自立に関連する諸要因の実態が明らかになり、主体的に行動できる人格および消費者を育成する上での実践的課題へのアプローチになると考える。
2. 方法 本研究は大学生を対象に、質問紙調査の分析によって行なった。調査票は直接配布し、その場で記入してもらい回収した。配布数は357票、有効回収票は344票であり(有効回収率96.4%)、それらすべてを分析の対象とした。調査時期は平成13年11月で、調査項目の自立尺度については、福島(1996)が自立の概念を明らかにするために作成した56項目を参考にして、どれだけ自立しているか測る尺度(17項目)を作成した。各項目については4段階で回答を求めた。金銭観尺度については、(財)日本青少年研究所らが平成6年度に行なった調査を参考にした。金銭に対する考えを問う項目(11項目)に対しても4段階で回答を求めた。自己の金銭観と親の金銭観はすべて同じ項目を用い、親の金銭観に関しては、対象者が生育環境を振り返り、親の金銭観を主観的に回答するものである。
3.結果
自己の金銭観および親の金銭観を独立変数として、自立の各因子への影響を調べた。自己の金銭観および親の金銭観ともに各自立尺度に対する説明率は低いものの、「親・友人からの信頼」因子に対する自己の金銭観の説明率は約7%、「独立」因子に対する自己の金銭観の説明率は約6%、「精神的・行動的独立性」因子および「親・親友らの信頼」に対する親の金銭観の説明率はともに約5%であり、大学生の自立に関する自己評価には、自己の金銭観のみならず、親の金銭観も影響を与えていることが検証された。
自己の金銭観と親の金銭観の平均得点の差を比較してみると、「総合型」は2項目、「他者依存型」は3項目、「自己確立型」は6項目、「身辺自立型」は4項目で有意差が認められた。さらに、親の金銭観によって自己の金銭観がどれくらい説明し得るかを検討するため、重回帰分析を行なったところ、調査対象者全体では35.0%の説明率であった。クラスター別にみると、「総合型」は40.4%、「他者依存型」は39.4%、「自己確立型」23.3%、「身辺自立型」35.5%であった。「自己確立型」は、自己と親との平均得点に有意差がみられた項目がもっとも多く、また、説明率はもっとも低いことから、他のクラスターに比べて親の金銭観の影響が小さいという特徴がみられた。
先行研究においては、現在の生活状況や本人の価値観等が大きな影響を与えており、小中高校時代のこづかいのもらい方やこづかい額など幼少時からの生育環境による有意差はみられなかった。しかし本研究において、大学生の自立に関する自己評価には自己および親の金銭観も影響を与えていること、また、自立クラスターの背景要因は様々であることが明らかになり、家庭・生育環境に柔軟に対応した金銭観育成のための社会教育プログラムの再構築が望まれる。