抄録
【研究の目的】調理実習は、子どもたちの好む学習であり、数多くの実践が報告されている。また、調理実習についての実践研究も数多くみられ一定の知見の蓄積がある。筆者は、先に共同研究において、家庭科の調理実習中の生徒の発話記録、ビデオ観察を通して、教師の指導のあり方、生徒同士のコミュニケーションについて考察した。その結果、調理実習においては、一人で行われやすい調理操作に関しては、あらかじめ共有化させることによって共同的な学びになりやすいこと、調理を共に行うグループ員の共同体としての意識構成を図る指導が重要であることを明らかにした。また、高校生の調理実習記録の分析を通して、生徒が調理自習を楽しいと感じる場合には、習得した技術を裏付けとした自己肯定感があることを明らかにした注)。 そこで、本研究は、高校生の調理実習を対象として、学習者が調理実習で何を学んでいるのかを明らかにすることを目的とする。
【研究対象および実施時期】公立高校1年生42名(男子20名女子22名)の合計7回におよぶ調理実習を対象とした。ここでの実習は非意図的な授業として実施されたものである。そのため、授業そのものが学習者の思考や行動に及ぼす影響について論じる必要もあるが、このことは本研究の主題ではなく、あくまでも、非意図的な授業においてどのような学びが行われているかを、学習者の側から読み解くことを目指したものである。 実施時期は2002年6月~2003年1月である。
【研究方法】7回の調理実習直後に書かれた調理実習記録を資料とした。学習者の視点から記録を読み解くために適当と思われた自由記述に注目し、文脈上から判断して記述をデータ化し、分析した。あくまでも学習者の視点を重視するために、あらかじめ分析のためのカテゴリーを設定せず、学習者がなにをどのように記述しているのかを読み解くことにした。データの分析・考察は、実習ごとにその実習でなにを学んだかを見ると同時に、生徒一人ひとりが何を学んだのかを個別に検討した。必要に応じて、授業終了8ヶ月後にインタビューを行った。
【研究結果および考察】本研究が対象とした実習記録は、実習直後に記録されたものである。そのため、時間の制約がある場合もあり、記述量には実習各回ごとの偏りが見られた。 学習者はグループで行われる実習で求められることを画一的に認知している傾向が読み取れた。多くは「協力すること」「時間内にできあがること」を評価の基準としており、「みんなで作ったからおいしい」というように、味を評価する際にも協力することの大切さが基準となっている場合が多かった。一方、おいしいかどうかの判断に際しては、「自分にしてはおいしかった」というように自身の調理技術を過小評価している様子が伺えた。また、「時間内にできあがること」を目指しているものが多く、実習記録全般に「早くできてよかった」「もっと手早くしたい」という記述が数多く見られた。 調理実習は、学習者にとっては食品、調理を知るための体験的な学習として意識されているが、実際には調理がうまくやれたかどうかについての記述が多く、どのような技術や知識を身につけたのかについては振り返りが少なかった。このことは、振り返りを意識的に行わせる、実習記録の工夫などの必要があることを示唆している。 一方で、実習の目標を認識していない記述が多いことから、目標を意識化させる実習のあり方を検討する必要があると考えられる。
注)「調理実習における共同的な学び(第一報)(第二報)「調理実習における問題解決的な取り組みに関する実践的研究」日本家庭科教育学会誌 Vol.46-2および46-3(2003)に掲載。